災害避難所でパーソナル空間を

岡田さんが開発した「スリープホックス」
プライバシーも守れる「スリープホックス」
2枚

 一時的とはいえ災害時の避難生活をいかに過ごしやすい環境にするかは、いつどこで地震が起きてもおかしくない日本では、真剣に考えておくべき課題だ。「避難所生活でのストレスを少しでも和らげ、プライバシーも守りたい」。そんな思いから生まれた、強化ダンボール製の組み立て式プライベート空間ユニットがいま、ひそかな注目を集めている。

 このダンボールハウスは、福岡市南区の駐車場用設備機器メーカー「ワールド・スペース」社長の岡田誠一さん(66)が本業のかたわら開発した「スリープボックス」と呼ばれるもの。全長208センチ、幅90センチ、高さ96センチだ。

 縦84センチ、横121.5センチの箱に収納されたダンボールをひろげ、ジョイントパーツで連結するだけ。1人でも15分あれば簡単に組み立てや解体ができ、持ち運びも可能。横壁には人が出入りする扉や、通風のための小窓があり、屋根はスライド開閉式になっている。岡田さんは、コインパーキングの不正乗り逃げを防止する装置を開発するなど、駐車場事業を本業としているが、「世の中にないもの、人のためになるものを創りだすことが生きがい」だと話す。

 スリープボックスを開発しようと思ったのは「東日本大震災では長びく避難所での生活でストレスや疲労をため、避難されていた大勢の方々が体調を崩して亡くなった。そうした震災関連死のニュースに接し、ショックを受けたのがきっかけ」と振り返る。「避難所ではたくさんの人たちとの共同生活を強いられます。雑魚寝の状態では、絶えず人の話し声や物音がしてよく眠れないでしょうし、常に人目にさらされてプライバシーがないというつらさもあります。そうしたストレスをためないためには、少しの間でも逃げ込める空間、つまり、避難所の中に自分だけの避難所があればいいのでは、と考えたんです」

 岡田さんは通常のダンボールよりも丈夫な強化ダンボールが持つ防音、断熱効果や耐久性に着目。2012年春ころから大手ダンボール会社の協力を得て開発をはじめた。「組み立て、解体、持ち運びを簡易にするために、ダンボールをいかに折りたたむかが最も難しかった」という。自宅の庭で試作品を組み立て、中が息苦しくないか、温度はどうかを確認するなど、試行錯誤を繰り返した末、4カ月後、現在の「スリープボックス」が完成した。とりあえず200個を製造し、費用は約250万円かかったという。

 実際に中に入ってみると、扉や窓、屋根を閉めた状態では、思ったほど周りの音は聞こえず、遮音性は高い。厳冬期でも人の体温(37度程度)でダンボール内を暖かく保ち、夏は窓や屋根を開けることで涼しくなるような容積に設計されているため、朝晩に冷えるときもこれなら寒くなさそうだ。

 内部には貴重品や携帯電話、メガネや薬など小物を置くための棚や、ダンボール製の折りたたみ枕も付属しており、被災者目線の心配りがうかがえる。女性はこの中で着替えをしたり、下着を干したりもでき、プラバシーも守れる。ごろんと寝っ転がってみると、中は静かで、人目を気にしなくてもいいからか、なぜか落ち着く。

 熊本地震では、当初200個を無償で被災地に届ける予定だったが、受け入れ先や運搬方法などが整わず、現在のところ、岡田さんが自分の車で積める分を熊本市や益城町などの避難所に持っていき、避難者に使ってもらうにとどまっている。「製品の認知度を高め、普及にどうに結びつけるかが今後の課題」という。

 岡田さんは「今回の地震でも、特に高齢者の方は慣れない避難生活で体力や気力が衰えている方がかなりおられます。想定外という言葉で済まさず、いつ起こるかわからない災害に備えた準備をしっかりしておくことが大事」と語る。例えばだが、指定避難所にこうした仮の「家」を備蓄しておいて、災害が起きたらだたちに提供すれば、着の身着のままで布団に横たわるよりはるかに避難者の不安やストレスは和らぐのではないだろうか(特別販売価格7500円、税別)。

 (デイリースポーツ特約記者・西松 宏)

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