イチロー、絶妙トリックプレーでだます
「ジャイアンツ3-2マーリンズ」(10日、サンフランシスコ)
マーリンズのイチロー外野手(41)が「3番・右翼」で出場し、3打数無安打1四球、1盗塁。主砲のスタントンが休養したため、マリナーズ時代の12年5月29日以来、3年ぶりに3番で起用されたが結果を出せず、打率は・270となった。試合は、マーリンズがサヨナラ負けを喫した。
全員がその動きにだまされた。スタントンに代わって今季初めて右翼を守ったイチローが絶妙なトリックプレーを披露したのは、1点リードの九回1死一塁の場面だ。
左打者のブランコが放った大飛球。頭上を越えると知りながらイチローは打球から目を切り、ほぼ定位置で落下地点に入るふりをした。もし打球の行方を見るために振り返ってしまえば、一塁走者は長打を確信し、一気にホームを狙う。
「とりあえず、ランナーを止める。(僕は)一塁ランナーと目を合わせてますから」
走者が一、二塁間で足が止まったのを見てから体を180度反転させたイチロー。走者は慌ててスタートを切ったが、本塁を突くことはできなかった。
敵地AT&Tパークの右翼フェンスの表面はレンガ造りで凹凸だらけ。07年にイチローが同所で球宴史上初のランニングホームランを記録した時は、フェンス直撃の打球が外野手の想定外の方向に飛んでいった。この日のプレーでも同じことが起こる可能性は十分あったが、「考え方としては、僕の周りに跳ね返って来た打球ではランナーを還さないということですね」とイチロー。演技力だけでなく胆力も要するプレーに「リスクはあるけど、同点にしたくはない。そりゃあ、どう跳ね返るか分からない。でも、リスクを取らないと利益も取れない。僕は今日はそっち(リスク)を取ったということですね」と説明した。
その演技にだまされたのは敵だけではなかった。イチローに「大丈夫?(打球が)見えなかったの?」と聞いてきたのは中堅手のオズナだ。試合後にイチローから「意図的だった」と言われてようやく理解。イチローは「本当はセンターが知っててカバーに来てくれることが前提としてあるけど、僕の動きにセンターがだまされていた。ダグアウトのピッチャーたちもそういう反応だったらしい。(若い選手は)経験がないから仕方ないよね」と話した。
敵だけでなく、味方までもがだまされたプレー。同じ外野手のジャイアンツ・青木は「完全にイチローさんのファインプレー。記録に残らないファインプレーですよ」と感嘆の声を上げていた。
試合は、イチローのトリックプレーで1死二、三塁となった後、マーリンズ・ベンチが次打者を敬遠四球で歩かせて満塁策を取った。マウンド上の守護神、シシェックは代打パガンを空振り三振に仕留めて2死満塁としたまではよかったが、青木に押し出し四球で同点とされ、最後はダフィーの左前適時打で万事休した。