投手イチローが自身に課した“ルール”
「フィリーズ7-2マーリンズ」(4日、フィラデルフィア)
マーリンズのイチロー外野手(41)がプロ24年目で初めて公式戦のマウンドに立った。シーズン最終戦となったこの日は三回の守備から右翼で途中出場。2-6の八回に4番手で登板して1回2安打1失点。打者5人に対して18球を投じ、ストライクは11球。最速は89マイル(約143キロ)だった。
ライトを守るイチローが攻守交代時に行うキャッチボールの距離がいつもより短く、投げるボールが力強く見えたのは気のせいだろうか。
以前から投手起用の可能性を伝えていたジェニングス監督さえも突然のイチローからの申し出に驚いたというメジャー初登板。しかし、当の本人は至って冷静だった。
「とにかくストライクを投げること、あとはテンポ。(後ろで)守ってて嫌なテンポってあるから。その2つだけはきっちり守らなきゃって」、「見方によっては相手に失礼という捉え方もできますからマウンドにいる間は相手に対して笑ってはいけない」。
登板するにあたって自身に課した“ルール”。イチローは「全部、消去法ですね。これはしてはいけない、あれはしてはいけない、ということでやっていく。リスク回避の考え方ですね」と説明した。
メジャーのマウンドは憧れの場所だが、「ピッチャーとして立ってるわけではないですからね」とイチロー。ただ、傾斜のあるマウンドには慣れてはない。投球練習の時点で感じたのは「とりあえず、ストライクは取れる」という手応え。
「その感覚は早い段階で分かった。でも、それがないとパニクる。フォアボール、フォアボールでは終わってますからね。次のピッチャーが用意しなきゃいけないパターンは最悪なので打たれもいいからとりあえず(ストライクを投げる)」
全18球のうち最初の9球がすべて直球だったのは、コントロールを重視したからだろう。4人目の打者への初球はこの日最速の143キロを計測。これが9球目。その直後に初の変化球となるスライダーで空振りを奪う。さらに決め球として温存していた“スプリット・チェンジ”を11球目に投げる。最後の2人はこれら3つの球種を織り交ぜて凡打に仕留めた。
敵地での今季最終戦。観客だけでなく、両軍の選手たちもベンチから身を乗り出して見守った18球。「自分の中にすごい悔しさが残っていたことがちょっとよかったかな、というのはありますね」。イチローが充実感いっぱいの表情でそう言った。