雑草ボクサー長田がアジア王座挑戦
失業無職の“落ちこぼれ”ボクサーが人生の一発大逆転を狙う。日本ライトフライ級14位の長田瞬志(29)=堺東ミツキ=が2月20日、敵地タイでIBFアジア同級タイトルへの挑戦が決定。対戦する王者はファーラン・サックリン・ジュニア(タイ)で、IBF同級15位にランク。13年大みそかには元WBA世界ミニマム級王者・宮崎亮(井岡)にKO勝ちした強豪だ。
プロ戦績は10勝(3KO)12敗2分けと負け越し。同じ滋賀県甲南市出身にはWBC世界バンタム級王者・山中慎介(帝拳)がいるが、真逆の平凡なボクサーだ。
競技のきっかけも“消去法”。「勉強も就職もしたくなかった。ちょうど格闘技がブームだったので」と、大津清陵高を卒業後、大阪に引っ越し。近所にあったエディタウンゼントジムに入門した。
05年8月、20歳の時にデビューしてから8戦で1勝5敗2分けと散々。「さすがに辞めた方がいいかな」と能力の限界を悟り3カ月、競技を離れた。
08年5月に復帰して4カ月で3連勝し、ようやくB級ボクサーとなった。だが10年9月、初の6回戦でTKO負け。その頃、長田は仕事にやりがいを見付けていた。
牛丼チェーン店の店長を任され、業績を伸ばした。売り上げの前年比は他店が90%台で合格とされる中、「124%まで上げた」“スーパー店長”となっていたのだ。
「アルバイトの管理、原価率、人件費の計算」と多忙をきわめ、「体はボロボロ」。練習時間もない中、11年11月に再起戦を行ったが完敗。「もう無理だ」と再びボクシングをあきらめた。
引き戻したのは入門以来、世話になる後藤芳清トレーナー。「けがもないし、まだやれる。俺と一緒に頑張ろう」と背中を押され、堺東ミツキに移籍して再デビューした。
牛丼店も辞め、12年6月から3連勝してA級ボクサーに昇進。その後、日本ランカー入りに挑むものの4連敗。「大丈夫か?」とまたも引退がよぎった。ラストチャンスと腹をくくった昨年8月、日本同級10位の金沢晃佑(大鵬)を打撃戦の末、判定で下し、10年かかって初の日本ランクを手にした。
「こんな落ちこぼれの僕を支え続けてくれた後藤さんと拾ってくれた春木会長には本当に頭が上がらない」と感謝してもし切れない。年明け早々には今回のタイトル戦のオファーがあり、「やります」と即答。「夢の舞台。大きなお年玉。今度は僕が後藤さんと会長を男にする」と恩返しに意気込む。
昨年末、苦労人に追い打ちをかける悲劇が訪れた。勤めていた弁当屋が店を閉めたため失職した。「タイまでは何とか蓄えがあるけど、その後はどうしよう…。でも試合に集中しろ、と神様が言っている」と、どこまでも前向きだ。
同ジムは、いまだ現役ボクサーの元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎(44)の練習拠点。「あの年でまだやろうとしている。俺だってという気持ちになる」と背中を見て刺激を受けてきた。
挑む相手は父が元世界王者というサラブレッド。タイでタイ人を相手に王座を奪取するにはKOしないと厳しい。「きれいなボクシングをする相手だから自分みたいなのはやりにくいはず。崩してやろうというのがある。中に入ってガツガツと。疲れてもうイヤだ、とギブアップしてもらう展開にしたい」。
右のファイターで攻略法は持ち味の“泥臭い”ボクシング。試合当日には30歳になる雑草男は「長田ごときと言う人もいるでしょう。長田でもできるんだ、というのを見せたい」と奇跡の戴冠を誓った。