服部力斗、天国の弟に捧げた涙の勝利
「ボクシング4回戦」(7日、三田市総合文化センター)
慢性骨髄性白血病で2月24日に死去した17歳のプロボクサー・服部海斗さんの追悼興行が、所属した大成ジムの地元、兵庫県三田市で行われ、兄・服部力斗(20)=大成=がライトフライ級4回戦でソリミン・ソワノ(インドネシア)をフルマークの判定3-0で下し、天国の弟に涙の勝利を捧げた。
トランクスには3兄弟の名を記し、シューズは「TEAM KAITO」と刻んだ。「いつか同じリングに立とう」。兄弟で誓い合った夢が実現した。
序盤から手数、スピードで圧倒し、何度もぐらつかせたがKOには至らず。「KOは狙ってなかった」と、4ラウンド、弟と2人のリングを満喫した。
判定がコールされた瞬間、我慢してきた思いはこらえきれなかった。涙は止まらず、会長、父と抱き合った。「弟が亡くなってすぐにこの試合に出ることを決めてから、1回も泣かずに練習も必死に頑張ってきた。弟のことを知らないのに、募金してくれたりフェースブックにコメントくれたりしてくれた人、ありがとうございます。その方たちがいたから、頑張れた」とむせび泣きし頭を下げた。
悲劇に続く悲劇を乗り越えた。弟が亡くなって8日後、母・佳代さん(享年45)も肝臓病で死去。「どうしていいか分からなかった」と打ちひしがれた。
それでも、弟の遺志を継ぎ、3月に熊本のジムから大成ジムに移籍。追悼試合に向けて、涙を流すまい、と練習に打ち込んだ。
弟と最後に交わした会話は毎日のように思い出す。失っていた意識が1週間ぶりに回復した2月15日。病室に行くと手を差し出され、「握って」と言われた。手を握ると「きつかった」と弟は号泣した。1年に及ぶ闘病中、初めて見せた涙だった。弟が死の間際に感じた死の恐怖、悲しみを忘れられるものではなかった。
「母と弟、いい報告ができる」と安ど。トランクス、シューズは、この試合限りで天国の弟にプレゼントする。「一緒に海斗のところに飾る。喜んでくれるでしょう」と、笑顔を見せた。
試合前は進退を悩んでいたが、現役続行することも決めた。三田市に引っ越しし、ボクシング1本にかける。「やっぱり僕はボクシングが好き。兄貴がベルトを獲ったらうれしいだろうし、獲ったら最初に弟に上げたい」と世界王者の夢は兄が背負う。
父・兼司さんは「母と弟を亡くして、精神的に練習する気になれなかったやろうし、でもしっかり仕上げてきた。まだこれからも強くなる。大した者。男として大した者と思う。力斗は自分が記事になれば、弟もみんなに思い出してくれる、と思って。1番、海斗のためと思って、ボクシングを続けるんじゃないのかな」と、長兄の思いに胸を熱くした。