王者・高山が最初のベルトを見せたのは

 ボクシングのIBF世界ミニマム級王者、高山勝成(32)=仲里=が9月27日、大阪で2度目の防衛に成功した。挑戦者の原隆二(25)=大橋=を相手に右まぶたをカットし、流血する中での8回TKO勝ち。持ち前の回転力で見せた集中打は見事で、その練習量の豊富さを思わせた。

 日本で初めて4団体を制覇した高山は、一時JBC管轄下を離れて海外に主戦場を置くなどタフなボクサー生活を送ってきた。しかし、リングを離れると32歳とは思えないピュアな素顔を持つ。

 この日は30歳で入学した名古屋の菊華高から、野球部を始めとする多くの生徒が応援に訪れていた。試合後のヒーローインタビューで王者は、「秋は文化祭や運動会など多くの学校行事があります。ダメージ次第ですが、ぜひ参加したいのでよろしくお願いします!」とあいさつ。それに応える仲間の大歓声に、いかに“高校生”として受け入れられているかを感じた。

 彼の純粋さは、新人王戦を戦っていた18歳のころから変わらない。当時は、世界王者の徳山昌守に憧れるあまり、同じ銭湯に通っていた。ボクサーだと知らなかった徳山が、あまりにいつも会うため「誰だ?」と驚いたこともあった。

 初めて世界を獲った2005年。高山が、そのWBC同級王者のベルトを「ぜひ見せに行きたい人たちがいる」と言い出した。担当記者が同行すると、その相手は、大阪・中之島公園でテント生活を送る路上生活者の人たちだった。同公園がロードワークのコースだった高山は「中学3年の時からここを走っている。自分に負けそうになった時に、おっちゃんたちが励ましてくれた。つらい練習を見ていてくれた人にベルトを見せたい」と言った。

 その日、大阪市役所で当時の関市長を表敬訪問した後、公園へ直行した。中之島の“おっちゃんたち”は「高山君や!」と大喜び。「どうぞ、見てください」とベルトを手渡した王者に「触っていいんか?」とちゅうちょした人もいた。しかし、「おっちゃんたちにこそ見てほしいんです」という言葉に皆、目を潤ませて「おめでとう。よかったな」と祝福。「記念写真を撮ろう」という話になり、思い思いのポーズで写真に収まった。この異例の記事と写真は“おっちゃんたち”の許可をとって、紙面にも掲載された。

 ミニマム級はKOが少ないため迫力不足とも言われるが、今回はその先入観を払しょくする試合を王者は見せた。重い階級にはないスピードと、心地よいリズム感の中で次々と繰り出される高い技術はボクシング観戦の初心者にこそ見てほしい。32歳で技術、パワー、そして精神力のすべてがピークにある高山。「王者になっても変わらないでいたい」。10年前に話していたとおり、その純粋さで数々の壁を乗り越えたからこそ、ボクサーとして今充実期を迎えているのだろう。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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