【サッカー】G大阪が示した王者の困難
7年ぶりのアジア制覇の夢を絶たれたG大阪。アジア各国の代表クラブが参加するアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で、日本勢で唯一準決勝まで進出したが、巨額のチャイナマネーでブラジル代表級の選手を獲得する広州恒大(中国)の壁に屈した。
08年にG大阪がアジアの頂点に立って以降、日本勢はその力を示せずにいる。今季を振り返ると、ACLでの選手の目の色は明らかに違ったし、ピッチ上での動きもキレていた。サポーターの声援からも、リーグ戦以上の気合を感じたし、われわれメディアも、プレスルームに入りきらないほどの人数がクラブハウスに詰めかけた。多くの人が一瞬、またアジアの頂点に立てるのではないかと夢を見たと思う。しかし現実は甘くなかった。
試合、回復トレーニング、調整、長距離移動、試合…。どんなに厳しい日程でも、これまで一貫して「総力戦で戦い抜くしかない」と言い続けてきたG大阪の長谷川健太監督は、ACL敗退決定後の会見で、ついに重い口を開いた。
「日程の部分はだいぶリーグに考慮してもらったけど、勝てば勝つほど重要な試合が増える。(ACLの)グループステージでは考慮してくれていたけど、勝ち上がったときの日程まで本当に考慮してくれていたのかと。そこまで考えてくれたら、Jのチームはもっと戦いやすくなる」
クラブハウスでの立ち話で「厳しいよね」なんて口にすることはあっても、日程や疲労などについて公の場で、初めて吐露した瞬間だったように思う。
指揮官の指摘通り、決勝に進出していた場合、中2日や3日間隔での試合を6試合経て、7試合目にACLの決勝第1戦をアウェー(アラブ首長国連邦)で戦わなければならなかった。もともと決勝第1戦の日にリーグ第2ステージ16節、第2戦日に同17節が予定されており、決勝進出の場合のみ、週の半ばに前倒される予定になっていたからだ。来季のACL出場権(リーグ戦年間上位3チームと、天皇杯覇者に与えられる)を考えれば、この発言時に年間4位につけていたG大阪がリーグ年間3位以内を目指すのは当然(現在は3位)。ナビスコ杯決勝もタイトルが懸かった大事な一戦だ。捨てられない試合が続くのに、捨てざるを得ない状況が生まれる。ACL出場4チームは、決勝進出を想定して移動の負担を減るように最終2戦がホーム開催となるようになってはいるが(そのため10月にホーム最終戦を迎えたクラブもあるのだが)、「決勝に行っていたら、果たして本当に戦えたのか」と指揮官が首をかしげるのも納得だ。Jリーグ勢としてアジア制覇を本気で狙う意志があるならば、そもそもACLの決勝とリーグ戦とを同日で組んだりはしないだろう。
遠藤は敗退後、08年の優勝時との比較を問われ、「あのときはリーグ戦も悪かったから、ACLに懸けていた。他のチームがレベルアップしたのは間違いないけど、安定して戦えているのは今かな」と話している。08年のG大阪はリーグ8位。偏った見方をするならば、リーグ戦はある程度見切れたということだ。
ACL準々決勝、後半ロスタイム弾でG大阪が下した全北(韓国)は、そこまで韓国Kリーグで独走し、敵なし状態だった。しかし敗退以降は、Kリーグ10位、最下位12位の2チームに勝利こそしたが、その後の上位対決(2位、4位、3位)は3試合続けて勝ち星がない。一概に関連づけることはできないが、韓国勢最後のとりでだった全北が、ACLへそれほどまでに強いモチベーションで臨んでおり、糸が切れたとも考えられる。
肉体的な疲労と、精神的な疲労。本気でアジアを取りに行くなら、どちらもチームには大きな負担となってのしかかる。それでも「アジアを取りたい気持ちが強くなった」と遠藤は言った。個の力、球際の競り合い、アウェーでの戦い方…。シーズンを通して課題は散見されたが、打ち破れないほどではないはずだ。G大阪はファイティングポーズを取っている。
まずは来季の出場権の確保が必須ではあるが、日程面はもちろん、戦力の拡充や強化も含め、今後勝ち上がるためにやるべきことは1つではない。新スタジアムで迎える16年シーズン、選手はもちろん、クラブも、協会も、Jリーグも、全精力を上げて8年ぶりのアジアの覇権をつかみに行ってほしい。アジアの借りは、きっとアジアでしか返せない。(デイリースポーツ・國島紗希)