沢、笑顔で代表引退…金の夢は後輩へ

 「ロンドン五輪・サッカー女子・決勝、日本1-2米国」(9日、ウェンブリー競技場)

 女子日本代表(なでしこジャパン)は9日、決勝戦で米国に1‐2で敗れ、昨年のドイツW杯に続く金メダル獲得はならなかった。しかし、銀メダルは日本女子史上初の五輪メダル獲得で、男女でもメキシコ五輪(1968年)の銅メダルを上回り、新たな歴史をつくった。ロンドン五輪を集大成と話していた大黒柱のMF沢穂希(33)=INAC神戸=は、今大会を最後に代表を引退する見通し。金メダル獲得は次世代に託す。

 銀メダルがこんなに悔しいなんて、思わなかった。でも銀メダルがこんなに嬉(うれ)しいなんて、知らなかった。「金じゃなくて正直、悔しいけど後悔はない。チーム内で自分が一番代表が長くて、これまで五輪のメダルを目標に掲げてきた。だから、やっと取れたなぁって」。夢にまで見た五輪のメダル。じっくりと見つめると、スタンドの母・満壽子さんの首に、感謝の念とブーケを添えてかけた。

 出し尽くした。2点を追う後半18分には、FW大野クロスに抜群のタイミングでゴール前に進入。自身のゴールはならなかったが、FW大儀見の得点をお膳立て。守備でも奔走した。揺るぎないセンスに裏打ちされた卓越したポジショニングに、確実な技術。「1点返した後は日本ペースだった。今までの日本にこういう姿はなかった」。代表デビュー18年目。米国の強さを誰よりも知る百戦錬磨がそう語るほど、この夜のなでしこは素晴らしい戦いをした。そしてその要は、間違いなく沢穂希だった。

 集大成と位置付けたロンドン五輪。道のりは険しかった。W杯優勝後に認知度は跳ね上がり、自由は消えた。自宅も引越しを余儀なくされた。一時は宅配便を受け取るのも嫌がり「対人恐怖症みたいな時期もあった」(関係者)という。良性発作性頭位めまい症を患い、再発を懸念し、6月のスウェーデン遠征からは代表スタッフとは別に“個人トレーナー”を付けた。周囲からは「チームトレーナーに失礼」という声も挙がった。だが、多くの逆風をはねのけ、大舞台で史上初のメダルという結果に導いた。

 96年のアトランタ五輪での1次リーグ敗退から8強、4強、そして今回の銀メダル。4度の五輪は一つずつ階段を上った。今後については「ノープラン」と語ったが、代表引退は既定路線。女子サッカー界の悲願である金メダルは、次世代に託すことになる。

 「最高の舞台、最高のスタッフ、最高の仲間とやれた。本当に感謝したい」。最後の五輪に、悔いはない。だから笑顔でいられる。いつか、この夢の続きをかなえてくれると信じているから。

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