伊調 劣勢跳ね返し前人未到の4連覇 天国の母が「助けてくれた」
「リオ五輪・レスリング女子フリースタイル58キロ級・決勝」(17日、カリオカアリーナ)
女子58キロ級決勝で伊調馨(32)=ALSOK=がワレリア・コブロワゾロボワ(ロシア)を下し、金メダルに輝いた。階級変更前の63キロ級を含め、04年アテネ五輪からの4連覇は、五輪全競技を通じ女子個人種目で史上初の偉業となった。48キロ級・登坂絵莉=(22)=(東新住建)、69キロ級・土性沙羅(21)=(至学館大)=も頂点に立ち女子初日の3階級でメダルを独占。日本の金メダルは10個となり16個を獲得したアテネ大会以来3大会ぶりの2桁に到達した。
「絶対に金メダルを獲るからね」-。五輪では4個目となる真新しい金メダルは、亡き母に捧げるものだった。
前人未到の4連覇は劣勢からの大逆転で達成した。終盤までリードを許していた伊調は、残り30秒から相手のタックルを切った。「相手が攻めてきたのでラストチャンスだと思った。ここしかないと」。最後残り3秒で執念でバックを取った。
これで4大会連続の金メダル。ただ、一つとして同じ感触のものはなかった。「今回が一番重い。応援してくれる皆さんのおかげで獲れた」。年齢は30台に突入。連勝記録もストップ。そして何より、心の支えだった大切な人を失った。
2014年11月、母・トシさんが倒れ、65歳で帰らぬ人となった。「こんなにも天井を見上げた五輪はない。上を向いて『見ててね。いい試合するね』って。母としゃべってから試合に臨んだ。最後はきっと母が助けてくれたと思う」
自身を取り巻く環境の変化は続いた。今年1月のヤリギン国際大会で、13年ぶりの黒星。連勝も189で止まり、悔しさを忘れないよう母の遺影の横に銀メダルを置いて毎日見てきた。首には慢性的な痛みを抱え、6月のポーランド国際では左肩を痛めた。伊調は「今回は始まる前から戦うのが怖かった。4連覇のプレッシャーではないけど、戦うのが怖かった五輪は今回が初めて」と明かした。
試合後はスタンドの家族からトシさんの遺影を受け取り、抱きしめた。「もっといい試合をしたかったので、まず『ごめんね』って言うのと、『ありがとう』と言いたい」と、豪快で優しかった最愛の母に勝利を報告した。父・春行さん(65)は「4連覇どうこうより、うれしい」と、家族で喜びをかみしめた。
4年ごとの出来事はいつも金メダルで締めくくってきた。「五輪は4年に1度なので、一区切りとしてマットにも礼をしたし、応援してくれる人にも感謝した」。5連覇への意欲については、「今は考えられない。しばらくは金メダルの余韻に浸りたい」と話した。
去就には明言を避けたものの、「また練習したい」と伊調。自身だけのレスリング道を紡いでいく。