伊調 孤高の戦いでつかんだ偉業 ストイックさゆえに孤立も…
「リオ五輪・レスリング女子フリースタイル58キロ級・決勝」(17日、カリオカアリーナ)
女子58キロ級決勝で伊調馨(32)=ALSOK=がワレリア・コブロワゾロボワ(ロシア)を下し、金メダルに輝いた。階級変更前の63キロ級を含め、04年アテネ五輪からの4連覇は、五輪全競技を通じ女子個人種目で史上初の偉業となった。
4度目の五輪で伊調が珍しい姿を見せた。精密機械のように相手を攻略してきた女王が、感情をさらけ出して必死の形相を浮かべていた。五輪という舞台の厳しさをこれほど痛感したことがあっただろうか。孤高の戦いでつかんだ4連覇だった。
3回戦で先制点を許すなど、苦しい闘いが続いた。決勝で迎えたコブロワゾロボワには、14年世界選手権でテクニカルフォール勝ちしていた。だが、今回は全く展開が違った。敗戦かと思われた終盤の逆転劇。セコンドについた栄和人チームリーダー(56)は「彼女の意地と執念を見せてもらった。この4年間は本当に苦しかっただろう」とねぎらった。
伊調はロンドン五輪前から男子との練習に取り組み、技術を磨いてきた。ただ、そのストイックさゆえか、ほかの女子選手たちと一線を画すようになり、合宿中に一人になることも多くなった。ある日のスパーリングでは相手になる選手が現れず「誰か来いよ」と声を荒らげた。「正直、孤独感を感じる」とこぼしたこともある。
孤立する伊調を心配した栄チームリーダーは5月中旬に個別の話し合いの機会を持ち「みんなで一緒に闘おう」と伝えた。伊調は「はい」と短く、力強く答えたという。
この日は伊調の前に、48キロ級の登坂が執念の逆転勝利を収めていた。伊調は9歳年下の後輩の姿に「本当にすごい」と刺激を受け、同じように劇的な勝利を収めた。試合後は仲間たちに祝福され、穏やかな笑顔をみせた。「自分一人の力では勝てなかった。きついことの方が多い4年間だったが、終わってみると五輪って素晴らしい」とうなずいた。