金を稼ぐのがプロ 優勝は人を成長させる
この1カ月近く、男女ゴルフの賞金王、賞金女王の話題が絶えない。男子は開幕直後から“プロ初優勝”を達成するなど、好調を持続して夏までに3勝を挙げて大差をつけてランキングを独走してきたルーキーの松山英樹が、獲得した米ツアーの2014年シード権を使って、既に新シーズンに突入。その、米国での大会から体調を崩し、日本ツアーに戻っても、コンディションが思うように上向かない。
先週の宮崎のダンロップフェニックスでは、右のほおが化膿してウミがたまり、痛々しい姿もさらけ出した。原因はさまざまあるはずだ。日本と米国、英国など、夏場の長期遠征もこなした。21歳の若い体だが、長時間の飛行機での移動、米国内でも長距離移動は避けられない。体調が整わない松山に対して、可能性のあるランキング上位選手たちが頑張って、差を詰めてきた。
松山の賞金王の可能性が最も高いのは当たり前だが、その可能性について、ランキング上位選手の考え方もまた面白い。ランキング3位の片山晋呉は「1%でも、最終戦に逆転の可能性があった方が、お客さんには楽しみ。やってる僕らもそれは同じ。どう考えたって、逆転はしんどいことだけど、そんなしんどい所で戦えることが、自分たちの生き甲斐でもある」と素直な気持ちを打ち明ける。
もちろん、松山は「賞金を稼ぐのがプロ」との信念をもっている。賞金王による長期シードは、今後、米ツアーを主戦場にするための大事な土台だと承知して、残り2試合で逃げ切りをもくろむ。
女子ツアーも、シーズン半ばまでに3勝して独走してきた森田理香子が夏以降、優勝から遠ざかる間に、横峯さくらが猛烈な勢いで追い上げ、11月に入って何と逆転して首位に立った。しかし、逆転された森田は先週のエリエール女子で大混戦を制して5カ月ぶりの勝利を挙げて再び首位に立って、今週の最終戦に臨む。
その森田の発言も素直に聞こえる。「今年1年はすごい早かったなと思う。いろいろ勉強もできた。すごい位置にもいる。ヘマもやった。恥ずかしい思いもした」。開幕から勢いに任せて突っ走ってきたシーズンだったことが分かる。「でも、最後だから悔いのないようにしたい」と言い、また「ミスはすると思う。そのミスを最小限にできれば、うまくいくこともある」と、この1年の経験で身にしみたことを、最後の舞台で具現化したい‐と思っている。
どちらかというと、森田は昨年まで上手なおしゃべりは苦手だったと思う。それが、優勝すること、勝てないことで、初めて味わうような、いろいろな体験から感じたことをを上手に口にできるようになった。
お金を稼ぐプロが、優勝と、真逆の勝てない日々の経験、で大きく成長していくものなのが分かる。
(デイリースポーツ・鈴木吉也)