オレ流カットが球界にもたらすものとは
オフの契約更改、まず主役に躍り出たのが中日だった。
落合博満GMが就任し、大減俸の嵐が吹き荒れ、チーム功労者の井端弘和が退団するという事態まで生んだ。減額総額は約8億円。
「チームが弱く、働らかなったら給料が減るのは当たり前」(落合GM)の理屈で選手たちを押し切った。こういった状況を生み出したのは、落合GMの「自作自演」でもある。監督時代の8年間で日本一を含むリーグ優勝4度、一度もBクラスに落ちたことはなく、選手の年俸は上がり続けた。が、今季は一度も優勝争いに加われないままの4位に沈み、観客動員も200万人を切ったことが、大幅カットの要因になった。もっとも、中日の更改手法に関しては他球団も歓迎の意向を示す。
阪神でも若手から契約更改が始まったが、フロント首脳の一人がこう話す。「球界というところは選手の声が強く、とかく球団は悪役になっていた。が、経営を任される側にとって最も大変なのが人件費。成績が伴わない者は給料を大幅に減らされる、と選手サイドも痛感したでしょう。ウチも中日ほどできるかどうかだが、シビアに見ていきたい。ただ、井端のような功労者に対して、あのような接し方はしないけどね」
今年度のプロ野球は2005年度から球界に参画した楽天が日本一になった。当時は球界再編問題で、12球団によるセ・パ両リーグの存続が危ぶまれた時期だった。その根幹にあったのがチームの赤字経営、年々高騰する選手の年俸に球団の収入が追い付かず、ごく2、3の球団を除いては赤字だった。かっては「球団経営は赤字でもそれは本社の宣伝費」と広告塔の役割で済む時代もあったが、そんな余裕ある親会社はもうない。
2005年以後、表立って「球界再編」が話題になることはない。今では各球団とも赤字経営ではないのだろうか。某球団のフロント首脳は首を横に振る。「いやいや、もうけを出しているチームは依然ごくわずかですよ。本音は手放したいと思っているチームもあるはず」
いくつかの数字を並べてみた。楽天が参入した2005年の消費者物価指数を100とした場合、2011年6月は98.1と世の中の物価は下がっている。選手の年俸はというと、12球団平均(外国人選手は除く)で2005年は3754万円で、2011年は3930万円に、2013年だと3764万円で微増の傾向にある。支出の最大要因が人件費なら、収入部門で大きく占めるのが観客動員数。この数字を見ると2005年の12球団平均で166万0384人。2011年には179万7511人(2005年を100とすると108.3)で今年度は183万7283人(同110.7)とわりあい均衡を保っているといっていいだろう。
ただ、その裏にあるのはメジャーの存在だ。年俸がそれほど高騰しないのは、超一流選手が海を渡ることによることが大きい。例えば田中将大(楽天)だ。今季の年俸は4億円だったが、開幕から負けなしの24連勝で防御率は1.27。奪三振のタイトルこそオリックスの金子千に譲ったが、MVPに沢村賞とこれだけの勲章がつけば、もし日本に残留したとしても年俸が10億円でも不思議ではない。それだけの年俸を楽天が払えるのか。日本のファンにとっては日本でマー君が見られなくなるのは残念だし、球団にとっても心残りはあるだろうが、考えようによっては残留しては困るのである。ダルビッシュの場合もそうだった。高額所得者を抱えながら、もしBクラスにでも転落し観客動員が減少すれば、その年は間違いなく大赤字になってしまう。
前述したように、多くの球団は赤字体質で、それぞれのチームがペナント獲得を目指して戦力を整える一方で、常に人件費との格闘が同居する。球界にとって多くのヒーロー出現は待ち遠しいところだが、実際にヒーローを抱えるとメジャーに移籍してくれた方が、というのも本音。その意味では日本のプロ野球は、もはや選手にとっての最高の舞台ではなくなっている。そんなステージで将来に向けてファンの心をつなぎ留めておけるのか。ひいては球団経営においても思い切った決断を迫られる危険性は十分に秘めている。(デイリースポーツ・中川優)