巨人と中日それぞれの思惑と新たな因縁

 ここまで手際がいいと、裏で「談合」があったのではと勘ぐりたくなる。今オフの巨人と中日の補強である。

 中日・落合GMが井端弘和内野手に年俸88パーセントダウンを提示。実質的なクビ通告だ。井端は中日一筋16年。功労者のプライドがあったろうが、これでは退団するしかない。

 すると巨人が「ウチへおいで」救いの手を差し伸べて、このほど1年契約、年俸4500万円でめでたく入団が決まった。

 で、ガッツこと小笠原道大がFA宣言すると、巨人は「戦力構想外」と冷たい態度を取った。「面倒見がいいチームなのに」と思っていると、落合GMがすかさず「必要じゃない戦力には声をかけない」とこれまた1年契約、年俸3000万円で獲得した。

 まるっきり、巨人と中日の「交換トレード」の図式だ。面倒な手順を踏む必要がないし、なにより格安で獲得できる。落合GM、かつて巨人に在籍していただけに、両者の間にパイプがあっても不思議ではない。冒頭のような邪推をした次第であるが、中日と巨人の利害は一致する。

 落合GMは97、98年と日本ハムに在籍した。その時、師弟関係を結んだのが当時、伸び悩んでいた小笠原と言われる。97年は本塁打0、98年もわずか1本だった。

 落合GMの薫陶(くんとう)を受けた小笠原は99年に25本塁打、打点83の好成績を残し、レギュラーに定着、以後はパ・リーグを代表する強打者に成長する。2人は昵懇(じっこん)の間柄である。

 落合GMは「普通にやれば人並み以上の成績を残す」と語っているが、小笠原を見てきた目に確たる自信があるのだ。

 今オフの中日、年俸削減の嵐が吹き荒れている。落合GMは緩んだチームにカツを入れさらにはハングリー精神の塊となった小笠原に「刺激剤」としての役割を期待している。

 一方の井端だ。元々、神奈川県川崎市出身で在京志望が強かったという。こちらは落合GMへ一泡もふた泡も吹かせてやろうと思っているはずだ。

 中日に一筋に在籍すること16年。WBCでも活躍した。いわば、中日功労者と言ってもいい。それが「石持て追われる」ような扱いである。復讐の炎がメラメラなのは容易に想像できる。

 巨人の遊撃は坂本勇人だが、原監督は「抜いてもらうくらいの気持ちでやって欲しい」と期待を寄せる。

 井端は守備範囲が広く、送球も安定している。打撃のしぶとさにも定評がある。今年は不調のままで終わったものの、開幕前のWBC2次予選リーグ・台湾戦で九回2死から同点打を放ったことは記憶に新しい。

 坂本には守備力の向上など課題が多い。まだ24歳。原監督は坂本に、”ライバル”をぶつけることによって、危機感を持たせるのが狙いだろう。また、坂本には自由奔放な1面がある。井端に「教育係」とか「お目付役」なんて声が出るのも自然の流れだろう。

 94年、落合GMは中日からフリーエージェント第1号として巨人に移籍。4番を背負って、長嶋監督の日本一奪回に貢献した。

 巨人の4番だった原監督はこの年、持病のアキレス腱痛から出場機会が減り、代打で起用されることが多くなった。

 原監督は来季セ・リーグ3年連続Vを狙い、落合GMは谷繁新監督をバックアップしながら、チームの立て直しを図る。そして、因縁を持つ2人はともに戦力外となった選手を有効活用することを決めた。

 小笠原、井端はどのような働きを見せてくれるのだろうか。来年の両チームが楽しみだし、巨人対中日戦が盛り上がるのは間違いないところだ。

 落合GMと原監督の「談合」は邪推のし過ぎか、むしろ「ア・ウンの呼吸」と言った方がいいかもしれない。

(デイリースポーツ・菊地順一)

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