落合GМが交渉で使った小道具とは?
退団者も含めれば総額8億3410万円もの選手年俸を減額した中日・落合博満GМ(59)の手腕には、球界内外で賛否が渦巻いている。
企業経営者の観点からみれば、コストカッターとしての手腕には注目すべき点が多い。保留者がゼロという結果が示すように、選手を納得させた落合マジックの秘密に迫る。
「落合さんのうまいのは、選手が絶対に反論できない小道具を、交渉の席に持ち込んでいたことだよ」。球団関係者が、落合マジックの種明かしをした。選手を説得するための小道具とは…。
選手との交渉は球団事務所内で行われる。選手が部屋をノックし交渉の席に着くと、目の前の机には野球のバットとボール、グラブが置かれていた。野球道具を間に置いて、落合GМが口を開く。「今季は何位だった?」。
12年ぶりのBクラス。観客動員も1997年のナゴヤドーム開設以来、初めて200万人を割った。その責任はどこにあるの…。目の前に置かれたバットがボールが、選手に無言のプレッシャーを与える。
バットを目の前にした野球論議で、落合氏に勝てるのは球界でもОNしかいない。「自分の打撃は…。相手投手と…。コンディションが…」などと、落合氏にプロ野球選手としての技術論や数字を訴えても何の説得力もない。落合氏から提示された条件に、黙ってうなずくしかない。
選手を大幅減俸するために、落合氏らしい計算があった。やみくもにコストカットを言っても反発されるだけ。あくまで「プロ野球」という土俵で話せば、落合氏の勝ちは明白だ。バット1本で勝負という落合氏の野球哲学は、ユニホームを脱いでも健在だった。
年俸交渉の席では普通、フロントの査定担当が1年間の成績を数値化して示す。最近ではパソコンを間に挟んでの交渉も多い。過去には選手側が自らの主張のために、小道具を持ち込むことはあった。独自に数値を出したり、他選手との比較などしたデータをパソコンを持ち込んだ。中には夫人からのプレッシャーや、家庭の事情を訴えるために家計簿まで持ち込んだ選手もいた。
しかし球団側が小道具を出したのは前代未聞。交渉する球団幹部は通常、プロ野球経験はなく本社から出向した素人ばかり。プロ野球の土俵に上がれは、戦手の言い分の方が強い。落合氏はそこを逆手に取って「プロ野球選手の土俵」で交渉した。
言い訳のできない、文句の言えない、けんかしても勝てる雰囲気を作ることが、交渉テクニック。コストカットを大前提にすれば、球団側の支援も得られる。すべて落合氏の計算通りに、8億円を超えるコストカットは終わった。
(デイリースポーツ・改発博明)