ファンが支えるカープの"FA哲学"
毎年、オフシーズンはFA選手の動向が大きく報じられる。そんな中、広島からFA宣言した選手が出ると、ほぼその年のFA市場の中心になる。それはご存じの通り、FA宣言した選手が、チームの主砲や、バリバリのローテ投手だったりするからである。
今年は前田健、野村、バリントンらと“2ケタカルテット”を形成した大竹が、FAを宣言した。今オフ、FA宣言した選手の中では名実ともにナンバー1。誰もが思った通り、巨人が獲得に成功したが、今年16年ぶりのAクラス入りを果たし、初のCS出場に喜んだカープファンにとっては、たまったモノではない。
94年の川口(巨人へ移籍)から始まり、99年の江藤(巨人へ移籍)、02年の金本(阪神へ移籍)、07年の新井(阪神へ移籍)、そして今年の大竹(巨人へ移籍)。広島を出ていったFA選手の名前は豪華絢爛。移籍先を見ても巨人、阪神という球界を牽引する東西の盟主であるのは偶然ではない。それだけFA選手の実力や名前が「広島カープ」という地方球団に在籍しながら“全国区”だったという証明だろう。
裏返せば、広島にとっては痛すぎる“損失”だ。新人時代から我慢して育て、4番やローテ投手に成長した選手が、脂が乗った時にチームからいなくなってしまう。フロントや首脳陣が、やりきれない思いになるのも無理はない。
ただ、これだけ他球団から中心選手を容赦なく引き抜かれ続けると、球団も慣れたモノである。大竹のFA移籍が決定的な状況になったころ、「残念」という声は聞かれなかった。それどころか「大竹の今季10勝を埋めるには」という話題がフロント、首脳陣から出始めた。「いなくなったらその分、誰かが埋めればいい」。悲嘆に暮れるのではなく、前向きに思考を転換していた。
はっきり言って、2年連続2ケタ勝利を挙げた投手の穴を埋めるのは簡単ではない。しかし、「広島の考え」は違う。もしかしたら“ポスト大竹”を巡り、くすぶっていた若手投手が目の色を変えるかもしれない‐。
金本が抜けた後は新井、新井が抜けた後は栗原…。過去の歴史が証明している。ある広島の球団幹部は「FAは選手の権利。こちらとしても誠意は見せるが、出ていきたいと言うのならば止められない」と話した。松田オーナーもFAについて「そういう制度があるのだから」と声高々に廃止を訴えることはしない。一見ドライな感じがする。だがそうではない。豊富な資金力がないのだから仕方がない、金がないならばどうするか、また別の一流の選手を育てればいい。これが「広島の考え」だ。
その姿勢がカープファンを支えているのではないだろうか。どこかの球団のように生え抜きの若手を育てられず、FAで楽に補強するのとは違い、戦力になるまで時間は掛かるかもしれない。しかし、そうやってチャンスをつかみ、出てきた選手だからこそ、すべてのカープファンに愛され、熱狂的な声援を送られるのではないか。
大竹が抜け、来季はBクラスに転落する可能性は否定できない。ただ、それよりもフロント、首脳陣、そしてカープファンは「どんな選手が出て来て大竹の穴を埋めてくれるのか」という期待感を抱いているはず。その選手が、なかなか殻を破れない福井、中崎、戸田、中村恭ら若鯉投手陣なのか、ドラフト1位の大瀬良(九州共立大)、同2位の九里(亜大)の新人なのか。想像するだけで楽しみだ。
今年、広島投手陣は阪神の新井を対戦打率・220と完全にカモにしていた。来年は大竹をカモにし、代わりに出現した投手が2ケタ勝利をマークする。そんなシーズンになれば爽快だ。
(デイリースポーツ・菅藤学)
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