新人王ライアン小川は中継ぎ候補だった
12日に行われたヤクルトの新入団発表。その席上で、小川淳司監督(56)は、新人投手4人に「合計20勝」と来季のノルマを出した。今季チームは最下位に沈んだが、16勝を挙げ最多勝、新人王を獲得した“ライアン”こと小川泰弘投手(23)を筆頭に、ルーキー3投手で計22勝。その頼もしい実績に、あやかってのものだった。
ちょうど1年前、同じ舞台に立っていたライアンは、ドラフト2位での入団だった。当時、真新しいユニホームに身を包んだ右腕は、特徴的な投球フォームが話題になることはあっても、華々しく1位指名された巨人・菅野や阪神・藤浪らに比べれば、注目度は決して高くはなかった。
そんな2人を抑え、新人王を獲得した小川。受賞の記者会見で、こう語った。「体の大きな選手に勝つことができれば、子どもたちにも勇気を与えることができる」。身長171センチと小柄な体で、恵まれた体格を持つ菅野や藤浪をねじ伏せたのだった。
アマチュアの投手を視察する際、プロのスカウト陣には、一定の“目安”がある。それは身長だ。ある球団のスカウトは、「左投手の場合は、工藤(元西武)や石川(ヤクルト)のように、身長はさほど関係なく小柄な選手でも十分に通用する。だが、右なら、桑田(元巨人)のような例外はあるが、178センチ以上はないと厳しい」と話す。
171センチ右腕の小川の場合、そうした「基準」には達していなかったことになる。球種の豊富さや、指先の器用さ、球のキレなどは目を見張るものがあったが、最終的に「上背がない」という理由から、多くの球団のライアン評は、「中継ぎタイプ」だったという。1位指名は、やはり将来のエース候補となる先発タイプを選択するのがセオリー。おのずと、小川の上位指名は、見送られる格好となった。
小川を2位で獲得したヤクルトも、1位にはヤマハから先発タイプとして石山を指名した。今季、中継ぎ、抑えとしてチームに欠かせない存在になったが、当初、先発ローテとして、より期待を掛けていたのは石山の方だった。小川は、即戦力投手としての評価は高かったが、あくまで中継ぎと先発との両にらみ。オープン戦での先発起用がはまったことで、開幕ローテをつかむことに成功した。
なおかつ、チーム事情が、ライアンにチャンスを与えた。右肩痛の由規がシーズン序盤に手術するなど、1年を棒に振った。開幕投手を務めた右のエース・館山も右肘じん帯を断裂し、全治1年で4月に戦線離脱。村中、赤川といったローテ投手も軒並み不調。小川を中継ぎで起用する余裕はない。ルーキー右腕にローテの一角を頼らざるを得なかったが、こうした先発のコマが不足した台所事情が、くしくも、ライアンの才能を開花させることになった。
上背はなくとも、独特のフォームで打者のタイミングを狂わせ、豊富な球種で的を絞らせなかった。その技術に加え、持ち前の反骨心と、「気持ちのブレがなく、淡々と投げる」(他球団スカウト)というアマ時代から高評価を得ていたメンタル面が見事にマッチし、今季の活躍につながったといえる。
前出のスカウトは「もしも先発陣が豊富にいるチームに指名されていたら、今頃、中継ぎで起用されていたかもしれない」と話す。ヤクルトという“働き場所”との巡り会い、その運命こそ、ライアンが持っていた実力なのかもしれない。
(デイリースポーツ・福岡香奈)