“日米不平等条約”に元阪神社長が警鐘
メジャー移籍か残留かで注目される楽天・田中将大投手と球団との話し合いが17日、仙台市内の球団事務所で行われた。その席で田中はメジャー挑戦希望を伝え、球団は来季残留を要請。この日は結論が出なかった。
球団側が即座に容認しなかった要因としては、貴重な戦力と考えていることはもちろん、ポスティングシステムに代わる新移籍制度に納得できていないという背景がある。
新制度は、日本の所属球団が米球団から受け取る金額を上限の2000万ドル(約20億円)以下に設定し、応じた球団すべてが交渉できるというもの。16日に都内で行われた実行委員会で、楽天は上限額を不服として反対したものの、多数決で正式承認された。
「楽天さんが反対する気持ちもよく分かる」と話すのは元阪神球団社長で、04年の球界再編問題にも携わった野崎勝義氏(現関西国際大客員教授)だ。
「MLBにしてやられたというか、日本人選手が安く買いたたかれたような感じがしますね。田中投手は日本球界にとっての財産ですから」
過去のポスティングシステムでは、松坂大輔投手(06年)の約60億円が最高落札額で、以下、ダルビッシュ有投手(11年)の約40億円、井川慶投手(06年)の約30億円と続く。もし従来の制度のままであれば、田中の場合は実績、実力、年齢などから考えて最高額を更新し、100億円に迫るのではないかとも言われていた。
野崎氏は「100億円はどうかと思うが、例えば70億円ぐらいにはなったかもしれない。そうなれば、それだけ日本人選手の価値が高いと認められるわけです。楽天だけの問題ではなく、今後の日本球界全体に影響することだと思います」と警鐘を鳴らす。
米球団の出費が抑えられる一方で、日本球団側は主力選手を手放したうえに、これまでよりも受け取り額が減る新制度は“日米不平等条約”とも言える。楽天の受け取り額が当初の見込みより大幅に少なくなることに注目が集まりがちだが、本当に憂慮すべきは、日本人選手、日本球界全体の価値が低く抑え込まれかねない点なのかもしれない。
「もっと早くからNPBと選手会が議論を重ね、もっと早くからNPBとMLBが話し合えなかったのかなとは思いますね。早い時期に(新制度の)結論が出ていれば、田中投手は残留するにしても気持ちよく残れたかもしれない」
新制度への移行をめぐっては、いったん日米間で合意に達し、日本シリーズ後に発表予定だったものが、選手会からの異議で締結ストップ。その後、選手会は承認したが、米側が白紙撤回したことで、結論が年末までずれ込んでしまった。
おそらく新制度に賛成した球団も、20億円の上限に100%満足しているわけではない。それでも、形は変わってもポスティングに近い制度を維持したかったということだろう。その結果、駆け込むように年内決着となった新制度。有効期間は3年だが、田中は2015年には海外FA権を取得する。
(デイリースポーツ・岩田卓士)
◆野崎勝義(のざき・かつよし)1942年1月27日生まれ。兵庫県出身。神戸市外大卒業後の1965年に阪神電鉄入社。96年、阪神球団常務取締役となり、2001年から04年まで球団社長。07年に退団し、現在は関西国際大客員教授を務める。
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