スポーツ選手が芸能事務所に入る理由

 今季限りで現役を引退した前阪神タイガースの桧山進次郎氏が、ホリプロ入りすることを発表した。ホリプロと言えば和田アキ子をはじめ多くの大物芸能人を抱える大手芸能プロダクション。野球解説者が入るとなると、違和感があるようにも思えるが、最近では珍しいケースではない。

 ホリプロは近年、スポーツ選手や解説者などのマネジメントも手がけており、野球評論家では北別府学氏(元広島)、田口壮氏(元オリックス)、岩本勉氏(元日本ハム)らも所属。現役のプロ野球選手では楽天・田中将大投手、DeNA・荒波翔外野手、西武・菊池雄星投手も所属している。

 ホリプロだけではない。吉本興業は今季限りで現役を引退した前西武の石井一久氏、ヤンキースからFAとなっている黒田博樹投手、ブルワーズ・青木宣親外野手、阪神・福留孝介外野手らと契約。エイベックス・スポーツには元阪神・金本知憲氏、レンジャーズ・ダルビッシュ有投手、DeNA・三浦大輔投手らが所属する。

 ひと昔前まで、芸能事務所に所属する野球評論家やプロ野球選手はほとんどいなかった。仕事の依頼は評論家であれば個人事務所や、専属のテレビ局、新聞社を通じて受けることが多かった。しかし最近ではスポーツマネジメントの事務所、そして芸能事務所に所属する人が増えてきている。

 その理由の一つとして、大手芸能事務所関係者は「昔のようにテレビ局が野球解説者と年間契約を結ぶケースが少なくなったからではないか」と指摘する。かつては在京のキー局はもちろん、在阪のテレビ局でも年間契約を結べば、十分な収入が見込めた。しかし最近では本数契約の形が増え、人によっては野球の仕事だけでは安定した収入が計算できない。芸能事務所に所属していれば、野球教室や講演会などのイベント、さらにはテレビのバラエティ番組出演など他分野の仕事が入ることもある。

 また、桧山氏のように人気選手だった場合は、引退直後には特に個人でさばききれないほどの仕事依頼が舞い込む。その場合も、芸能事務所に所属していれば“交通整理”を任せることができる。受けるべき仕事内容かどうかなども、プロの目で選別してもらえるメリットもあるだろう。

 また「税務処理をする上での書類も事務所が整えるので、お金の管理という面でも本人は楽だと思います」と同関係者。さらには「マスコミ対策という意味でもメリットはあります。現役時代はスポーツマスコミとの付き合いだけですが、引退して他分野の仕事をし始めると、いろいろなマスコミを相手にすることになりますから、われわれがその間に入るわけです」という。

 では、芸能事務所側のメリットは何だろうか。「これまでに扱っていなかったジャンルの人材を確保することで、新たな分野を開拓することにつながります。スポーツ選手による町おこしのようなイベントも企画できます。いろいろな分野の人材がいれば、一つの事務所の所属タレントだけでテレビの情報番組の出演者をそろえることもできます」。今は大きな収入源とはなっていないというが、将来的には可能性が広がりそうだ。

 本人と事務所の取り分比率は社によって違う。仕事内容によっても変動するという。スポーツタレントの場合、事務所によっては本人が契約を取ってきた講演会などの仕事はすべて本人の取り分となるケースもあるという。

 「もし自分ですべてできるという人であれば、事務所に入らない方がいい場合もあるんですけどね」。とはいえ、スポーツ選手にとっては経験のないことばかりだけに、決して簡単ではない。契約上のトラブルに巻き込まれる危険性もある。芸能事務所のスポーツ部門は、今後さらに発展しそうだ。

(デイリースポーツ・岩田卓士)

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