名将去っても光る“クルピ・ブランド”

 12月11日、今季限りで退任したC大阪のレビー・クルピ監督がブラジルへ帰国の途についた。平日の朝にもかかわらず、関西空港には約150人のファン、サポーターが見送りに駆け付け名残を惜しんだ。日本で指揮を執った計8シーズン、60歳の名伯楽は多くの人に愛され、そして多くのものを残した。

 次々と才能ある若手を育て上げた。11月に行われた欧州遠征の日本代表にはFW柿谷曜一朗をはじめ、香川真司、清武弘嗣、乾貴士、MF山口蛍と、クルピ監督の指導を受けた5人の選手が名を連ねた。日本が4位と躍進した昨夏のロンドン五輪にも、MF清武、山口、扇原貴宏、FW杉本健勇(当時東京Vに期限付き移籍)らC大阪育ちの選手を送り込んでおり、日本サッカー界において“クルピ・ブランド”“セレッソ・ブランド”を確立した。もちろん、クラブの育成組織による不断の努力が寄与したことは言うまでもない。

 クルピ監督が2度目の監督就任を果たした07年5月から11年までと、3度目の就任となった12年8月から今季終了まで、コーチとして支えた小菊昭雄氏は「若い選手をただ使うというより、もう少し正しい言い方をすれば、若い選手にチャンスを与える回数が他の監督よりも多かった」とその起用法を説明する。プロ1年目に出番のなかった香川を、ボランチから攻撃的MFにコンバートしてJ2で35試合に出場させたことに始まり、「マリノスでくすぶっていた(乾)貴士にチャンスを与えて使い切り、キヨ(清武)には(香川が抜けた後)チームの中心としての役割を全うさせた」(小菊氏)。可能性を感じた選手を辛抱強く使い続ける。「そういった勇気、決断は普通の監督にはできなかったのでは」と小菊氏は振り返る。

 さらには、「誰かを贔屓(ひいき)することは絶対なかったし、選手を平等に見ていた。自由を与えてくれるし、ピッチ上でサポーターを満足させることができれば文句は言わへん人。そういう意味では若い選手は色々できる環境やった」と柿谷が話すように、若手にとっての“やりやすさ”が成長を促した側面もあったのかもしれない。

 「チャンス」や「自由」を与える代わりに、クルピ監督は常に「数字」を求め続けた。今季開幕前には柿谷について、「ボールを持った時の技術は(香川)真司を少し上回る。ただ、真司はゴールを強く意識し、試合を決められる選手だった。もっと決定力を磨けば真司と同じ道を歩める。今シーズン、曜一朗に期待するのは数字を残すことだ」と語っていた。得点ランク3位となる自己最多の21得点を積み上げ、ゴールという「数字」で成長を示した柿谷に、「プロとしての姿勢をピッチで見せてくれた。以前は極端に言うと、公園に遊びに行く感覚でサッカーをしていた。曲芸的なプレーを好み、サーカスに来ているようだったが、今は自分の技術を使い、ゴールという最終目標に突き進んでいる」と目を細めた。「数字」は「評価」となり、その選手をさらに高いレベルへと押し上げる。

 自ら指導した選手らを“息子”と呼び、厳しさの中にも温かい眼差しを注いできた。そんなクルピ監督の“最後の息子”が、今季トップチームに昇格したFW南野拓実だ。U‐15、U‐18とC大阪の下部組織で育った“育成の最高傑作”とも称される逸材は、高卒ルーキーとしてクラブ史上初の開幕スタメンを飾ると、第14節磐田戦でリーグ戦初ゴールを挙げ、FW大久保(川崎)の持つクラブJ1最年少得点記録を塗り替えるなど29試合に出場して5得点。今季のJリーグ「ベストヤングプレーヤー賞(新人王)」に輝いた。

 当然、クルピ監督は南野に対しても「数字」を求めた。「攻撃陣は数字だと毎日のように言われた」という18歳は、「年齢は関係ない」とピッチで躍動した。最終節浦和戦で2得点を挙げるなど、今季最高とも言えるパフォーマンスを披露した南野に対して、クルピ監督は香川、柿谷、清武、乾の名前を挙げながら「彼らと同じ道を歩んでいける。日本のサッカー界を背負って立つ選手」と“末っ子”へ言葉を贈った。

 日本で獲得したタイトルは一つもない。10年にクラブのJ1史上最高順位となる3位に入り、初のACL(アジア・チャンピオンズリーグ)出場に導いたが、今季は優勝した広島に勝ち点4差の4位。栄冠に手が届きそうで、またも届かなかった。

 いわゆる“勝てる監督”ではなかったのかもしれない。ただ、タイトルという「数字」だけでは、クルピ監督という指導者を評価することはできない。14年ブラジルW杯のピッチに、クルピ監督の指導を受けた選手が何人立つのか、そこでどんなプレーを見せるのか。そういったところにこそ、この名伯楽の功績があるのではないだろうか。「セレッソだけでなく、日本サッカー界に残したものは計り知れない」。小菊氏は噛みしめるように話した。

 「大きな夢を、『勝者』となる夢を描いてほしい」。クルピ監督は幾度となく繰り返していた。ピッチを離れるとジョークを飛ばし、いつも周囲を笑わせた。サッカーを愛し、人生を楽しんでいた。

 11月30日、ホーム最終戦となった第33節鹿島戦。試合後のセレモニーで場内を一周した際、クルピ監督は英国のロックバンド「Coldplay」の「Viva la Vida」をBGMに選んだ。スペイン語で「人生万歳」‐。レビーさんらしい選曲だった。

(デイリースポーツ・山本直弘)

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