奥さんになるならボート選手がお得?

 プロ野球選手やサッカー選手の場合、試合のある日は自宅から、あるいはアウェーなら遠征先の宿舎から球場や会場に向かう。試合が終われば真っすぐ帰路に着く選手もいるだろうが、基本的には外食しても、ネオン街に出かけても、風俗に行っても何の問題もない。

 しかし、競輪やボートはそれらの競技とはかなり異なる。

 まずは競輪について。

 競輪の開催は基本、3日間か4日間。その前に『前日検査(通称・前検)』といって前日に競輪場に到着していなくてはならない。しかも、その前検から最終日まで、外部との連絡を一切絶つことになる。つまり、競輪場に入るや否や選手管理室で携帯電話を含む、外部と連絡が取れる全ての電子機器をいったん預けることが義務化されている。なぜそのようなことが行われるのか。やはり金銭が絡む競技でもあるので「不正を防ぐ」という意味合いが強い。

 食事についても当然外食は禁じられている。なので、3食とも宿舎内で摂らなければならない。しかも、レストランのようにさまざまなメニューがあるわけではない。大変なのは栄養士さんだ。体力勝負の競輪選手のこと、それなりにボリュームのあるものを求められる。しかし、下は20歳前後から上は50歳前後まで、競輪選手の世代は広い。それぞれの世代に満足してもらえる食事を提供しなければならない。しかも、それが3日間開催なら前検日の昼から最終日の昼までで10食。G3などの記念競輪なら13食。G1で6日間開催ともなると19食!飽きられないように、日々頭を悩ませているとのことだ。

 競輪の前検日の昼食は全国どこでも決まってカレーライスである。まず、カレーが嫌いという人は少ないだろう。しかも腹持ちもいい。新聞記者も前検日は選手と同じカレーをいただくことが多いが、地方や場所ごとに特色があり“ご当地カレー”が楽しみでもある。私が一番好きだったのは高知競輪場のカレーライスで、ニンニクがたっぷり入っていた。全員がこれを口にするものだから、多少におってもお構いなしである。

 食堂では夜に限ってアルコールもOKだ。ただ、昔は各部屋に持ち帰って仲間内で小宴会を催すこともあったが、現在では飲酒は食堂に限られている。つまり、時間がくれば「お客さん閉店ですよ」てな具合に追い出されるという。追い出されたら、あとは風呂に入るかテレビを見るか読書をするか。囲碁や将棋はあっても、マージャンやカラオケはない。ひたすら体を休めるのみだ。

 一昨年からガールズケイリンが始まった。まだガールズだけで全レースを組めないので、宿舎内は男子と女子が同居する形に。当然のことながら入浴は時間差で。食堂も仕切りがしてあり、一応女子は隔離状態。お酌をすることも、してあげることも原則禁止である。

 そして最終日、自分のレースが終わると、携帯電話などの私物を返してもらって管理解除となる。ちなみに競輪選手の場合、そのシリーズに稼いだ賞金は銀行振り込みではなく手渡しである。ざくっと札束をわしづかみにして「お疲れ様、あばよ」と競輪場をあとにする。これがかっこいい。いまだに現ナマ制度なのは「あの選手くらい稼ぎたい」という向上心をあおるという意味もある。ただ、G1優勝のウン千万とか、KEIRINグランプリの1億円になると、さすがに振り込みも可能である。

 ボートも似たようなものなのだが、電子機器没収に加えて、より厳しい私物検査がある。ボート選手はレーサーであると同時にエンジニアなので、手荷物に関しても厳しいチェックを受ける。

 競輪と違って大きく異なるところは食事だろう。男子の理想体重が50キロ、女子が47キロなので、大食いはできない。おいしいものをちょこっとという感じで。日ごろ不摂生している選手はレース場入りして慌てて減量することもあり、浴室内のサウナがすし詰め状態になることも。

 さらに、アルコールは一切厳禁である。ボートの場合通常6日間開催で前検日を入れると管理期間は7日間。台風などで順延すると、さらにそれ以上になる。愛飲家にとって7日間の禁酒は拷問である。だから前検日の前日は、しこたまアルコールを注入することになる。

 時効だから明かすが、一昨年の今ごろ。大阪である競輪選手の結婚披露宴が行われた。それに出席した沖縄のボート選手H(SG覇者で元愛知!分かりますよね)と、北海道の競輪選手S(最近電撃引退、分かりますよね)はともに朝まで飲んでヘロヘロである。2人ともほとんど寝ないまま、Hは尼崎の周年記念前検へ。Sは向日町F1へ。私も最後までお付き合いさせていただいたが、見た限りとてもまともに歩ける状態ではなかった。しかし、終わってみればHもSもきっちり優勝してお帰りになられた。やはり超一流は回復力もすごい?

 そんなことだから、酒好きのボート選手は最終日に管理解除になると、まず真っ先にコンビニかスーパーへ駆け込んで缶ビールを購入する。ただ、競輪と違って賞金は振り込みだ。だから、ボート選手の奥さんは競輪選手の奥さんのように心配することはない。また、ボート選手の平均年収が1600万円であることや、1年の約半分をレース場で過ごすことなど、けがさえしなければにまさに「亭主元気で、留守がいい」。

 奥さんになるなら、ボート選手がお得?

 (デイリースポーツ・坂元昭夫)

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