もうひとつの掛布効果 若手の心酔ぶり

 阪神の掛布DC(GM付育成&打撃コーディネーター)が連日、関西のメディアをにぎわせている。デイリースポーツでも、掛布さんが口を開けば「1面」候補。25年ぶりにミスタータイガースが現場復帰したことで、ファン、そして阪神球団内でもV奪回への機運が例年以上に高まっている。

 デベロップメント…と、掛布さんの肩書は少々長い。基本的には2軍の野手育成を担当するが、球団首脳の話を聞いていると、実質は1、2軍の統括コーチを期待されているようにも思える。きたる春季キャンプでは2軍中心の高知・安芸から指導をスタートさせるが、2月の中旬には沖縄入りし、1軍中心の沖縄・宜野座で、主力選手、外国人にもアドバイスを送ることになるはずだ。

 阪神球団がこのタイミングで掛布さんに指導者就任を要請した真意は詳しくは分からないが、昨秋のキャンプで既に指導を受けた若手選手は一様に歓迎ムードだ。秋季キャンプに参加した野手で唯一のレギュラー、大和は「言っていることが全部、分かりやすいんですよ」と話していた。

 私も取材させてもらって感じたことだが、実績のない若手に対して、必ず目線を下げて対話をする姿が印象的だった。頭ごなしの指導をしない。グラウンドで選手とのやりとりを聞いていると、指導というよりは助言に近いものが多かった。

 11年度ドラフト1位入団の伊藤隼も掛布DCに魅了されたひとり。慶大卒で即戦力外野手として期待されながら2シーズン結果を残せず、期する思いがあるのだろう。昨秋のキャンプ直後「自宅まで伺って、話を聞いてきます」と、文字通り掛布塾の門をたたいたというのだから、必死さが伝わってくる。

 掛布さんは1988年に引退。87年生まれの大和、89年生まれの伊藤隼ら若手が、ミスタータイガースの現役時代を知るよしもない。つまり彼らは、名前や実績につられたのではなく、純粋に人柄や指導法に惹(ひ)かれたのだろう。

 このように若手の心酔ぶりを聞いて感じることがある。掛布さんの加入によってもたらされる恩恵は、技術部門にとどまらないのではないか、と。阪神に限らず、どこの球団も抱えているジレンマだが、複数のコーチ制が若手の成長を妨げる実態が少なからずある。

 セ・パ各球団には野手、投手部門でそれぞれ2人以上のコーチを配置されるが、指導方針が統一され、コーチ間の風通しがすこぶる良いチームは意外と少ないと聞く。要はコーチによって、言うことが違う。コーチ同士の関係そのものがぎくしゃくしていれば、船頭多くしてなんとやらで、若手は路頭に迷ってしまう。

 「○○コーチから△△と言われたのですが、××コーチは~□□と言っています」。かつて、阪神でもそのような話を何度か聞いたことがある。そうなれば、実績のない若手であれば、コーチ陣の顔色をうかがう八方美人にならざるを得ない。

 掛布さんは、いわばタイガースのレジェンド。和田監督以下コーチ陣からもリスペクトされており、指導の「指針」を一任されれば、コーチ間の意思統一もスムーズにいくだろう。そうなれば、阪神の若手から「迷い」が消える。事実上のテスト入団からなりあがった、いわば「雑草魂」の持ち主であり努力の人だけに、プロ野球での指導歴はなくとも、一流へ導く「過程」を心得ている。

 掛布さんについていこう!これが若虎の合言葉になれば、「阪神は若手が育たない」とされる、長年の懸案は解消されるかもしれない。

(デイリースポーツ・吉田 風)

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