フィギュア採点の悪夢…02年の大騒動
審判員の不正が原因で、いったん確定したメダルが覆ったのは、五輪史上初めてだった。野球畑が中心の記者生活で、ただ一度、五輪取材に携わった02年ソルトレークシティ五輪で『事件』は起こった。
フィギュアスケートのペアでは、ショートプログラム(SP)1位のロシア組とSP2位のカナダ組が大接戦。そして 運命のフリーを迎えることになった。当時は順位点によって、順位が決定していた。SPは順位の2分の1、フリーは順位そのものが順位点となり、合計の順位点が少ない方が上位となる。SP終了時点でロシア組は0・5、カナダ組は1・0。もし、フリーでカナダ組が1位、ロシア組が2位なら順位点はカナダ組2・0、ロシア組2・5となり、カナダ組の逆転金メダルという状況で、演技は始まった。
男子選手のジャンプ着氷で乱れのあったロシア組に対して、カナダ組はミスらしいミスもなく、隣国の米国開催という『地の利』はあったにせよ、会場の反応では、明らかにカナダ組が上回っていた。注目の採点は?ロシア組を1位とした審判員はロシア、中国、フランス、ポーランド、ウクライナの5人。カナダ組を1位としたのは米国、カナダ、ドイツ、日本の4人で、結果はフリーでもロシア組が1位となり金メダルを獲得。カナダ組は銀メダルとなった。
「微妙やなあ」。競技終了後の思いは今でも覚えているが、日本人選手が絡んでいたわけでもなく、それほど気にとめることもなかった。デイリースポーツでも「ロシア組が金」という15行ほどの短い原稿が掲載されただけ。それ以上でも、それ以下でもなかったが、放っておかなかったのは、五輪開催国の米国のメディアだった。
一夜明けると、テレビでは開催されている競技そっちのけで、昼夜を問わず『疑惑の採点』として大キャンペーンを展開。ついには、フランスがペアでロシアに高得点を与える見返りとして、アイスダンスではロシアがフランスに高得点を出すとの密約があったという話まで飛び出し、フランスのフィギュアスケート連盟の会長がこれを認める形で「彼女(審判員)は特定の行動を取るよう圧力を受けていた。採点は少し操作された」と取材に答えたことで、いよいよ大騒動に発展。メディアセンターで頻繁に開催される記者会見に顔を出す羽目になった。
最終的にはロシア組の金はそのままで、カナダ組にも金メダルを授与するという、前代未聞の灰色決着。カナダ組は喜んだが、ロシア組は「ロシア人を悪者のように扱っている」「審判員に話しかけたこともなければ、9人の審判を買収するお金もない」と最終決定への非難声明を出すなど、ドロ沼劇は収拾することもなく…。
この事件をきっかけとして、フィギュアの採点方法は大きく変更された。そして今へと至っているが、この騒動を取材したこともあって、採点競技へのモヤモヤとした気持ちは、あのソルトレークシティから持ち続けたままだ。個人的には主観の入る余地のない競技、冬季五輪で言えば純粋なタイムを競うアルペンスキーの応援により力が入るが、今回ばかりはフィギュアも、避けては通れないと思っている。 現役生活の集大成として、ソチのリンクに立つ浅田真央を筆頭に、メダル候補がズラリと並ぶ日本フィギュア陣。モヤっとすることなく、スッキリした気持ちで、表彰台を拝めるよう願っている。
(デイリースポーツ・玉森正人)