５０代も半ばになって、再び凝っているものがある。高校時代によく聴いたラジオの深夜番組にはまっている。それも洋楽中心のＦＭ局ではなく、いわゆる普通の中波局、特にＮＨＫの第一放送に耳を傾けている。

　新聞記者という仕事柄、自宅に帰るのは午前零時過ぎというのはよくあること。シャワーを浴びた後、缶ビールを片手にラジオのスイッチをひねると、ラジオならではの音楽企画が次から次へと飛び出してくる。ベッドに入ってからも聴いているので、朝までスイッチを入れっぱなしにするのが習慣化してしまった。

　その時間帯、ＮＨＫは「ラジオ深夜便」を放送しているが、午前２時からのコーナー「ロマンチック・コンサート」と同３時からの「にっぽんの歌にっぽんの心」が特に面白い。「ロマンチック‐」はどちらかというと洋楽を中心に、一人のアーティストにスポットを当てて特集したり、テーマに沿った曲を集めたりする。

　先日は２月１８日から来日公演を行う英国のアーティスト、エリック・クラプトンの特集をやっていたが、何とも心憎い選曲だった。クラプトンの数多い作品の中から、ライブ録音したものだけに絞って曲を流し続け、何となくライブの臨場感みたいなものを味わうことができた。実際に日本公演に出かけられる方にも、いい“予習”になっただろう。

　ジュリー（沢田研二）の特集では、ヒット曲の中に「ＰＹＧ（ピッグ）」時代の曲を織り交ぜたりして、ファンというよりマニアにはたまらない構成だった。

　ちなみに「ＰＹＧ」というのは、ＧＳ（グループサウンズ）ブームが終わった後、１９７１年に結成されたロックバンドで、ザ・タイガースから沢田研二、岸部修三（現一徳）、ザ・テンプターズから萩原健一、大口広司、ザ・スパイダーズから井上尭之、大野克夫が参加した、当時米国で流行していた“スーパーバンド”だった。

　ヒット曲を生み出すまでには至らなかったが、日本の音楽史の１ページを飾ったのは間違いない。「ラジオ深夜便」を聴いていると、若い頃を思い出すとともに、改めて音楽を取材する記者として大勉強になる。

　「にっぽん‐」はもっとすごい。歌手別、作曲家、作詞家別の特集は当然として、戦後すぐの昭和歌謡を年代別に特集してくれる。もはや昭和２０年代から４０年代の歌謡曲を覚えている人も少なくなってきただけに、その音源たるやかなり貴重だ。

　いつも寝るつもりで横になっているのだが、つい聞きほれ、コーナーが終わる４時ごろまで起きているのがクセになってしまった。その時間は故人となられた淡谷のり子さん、三橋美智也さん、フランク永井さん、藤山一郎さん、東海林太郎さんなどの歌声を聴きながら、詞・曲・編曲・歌唱法を平成の歌と比較している自分がいるのを感じてしまう。

　古い歌に関する簡単な知識は、スマホで検索すれば分かることは分かる。しかし、ラジオを通じてとはいえ、当時の歌を耳にすることで改めて歌謡曲というものの変遷や伝統を感じ取れる気がする。　深夜番組以外でも、家や車の中で“ながら”で聴いていると「オイ、こんな大物出るのかよ」っていうアーティストが生でインタビュー番組に出ている。テレビじゃ絶対みられない細野晴臣や井上陽水、瞳みのるらがなぜかラジオには平気で出て来て、ビックリするような裏話を披露している。いつも「もったいないな」と思っている今日この頃だ。

　スポーツ番組は大画面のテレビで見るのが絶対いい。例えば、ラジオの相撲中継はアナウンサーがどんなにうまくとも、勝負の決着が早すぎるし、場内が騒がしすぎてアナウンサーの声もかき消されてしまうので訳が分からない。

　音楽もライブ映像が見たければテレビがいい。地上波に加え、ＢＳ、ＣＳなどがひっきりなしに放送している。今はロックのライブにも「ビジュアル」が要求されるそうで、音楽にそういう面を求めているファンには、テレビが一番てっとり早い。

　でも、ラジオの音楽番組は本質的に違うような気がする。パーソナリティー、ディレクターの趣味・センスでどのようなスタイルにも番組を作れるし、持っている音源もフル稼働できる。

　ソチ五輪の始まる直前、ある番組が五輪にまつわる曲を特集していた。１９７２年の札幌冬季五輪のテーマ曲「虹と雪のバラード」が聴きたいと思っていたら、見事パーソナリティーは期待に応えてくれた。

　トワ・エ・モアの息のあったハーモニーを聴きながら、ジャンプ７０メートル級（現ＮＨ）で札幌の空に３本挙がった日の丸を思い出した。ラジオには、音楽とそれにまつわる歴史を引き出してくれる魅力もある。ヒマがあったら、いや風呂に入りながら、酒でも飲みながら、そのついでにラジオを聴いて見てください。

（デイリースポーツ・木村浩治）