ビデオ判定が“完全導入”されない理由
明らかな誤審がテレビ画面に映し出されても、判定が覆ることはほとんどない。試合を観戦しながら納得がいかず、後味の悪い思いをしたことのある野球ファンは、少なくないだろう。
そうした思いを解消しようと、米大リーグでは今季からストライクとボールの判定を除く、ほぼ全てのプレーでビデオ判定が導入されることになった。アメリカンフットボール、アイスホッケー、テニスなど、スポーツ界でビデオ判定は次々と導入されてきたが、大リーグもついに“完全導入”に踏み切った。
一方、日本のプロ野球でもこれまで本塁打のみ適用されていたビデオ判定が、今季からは外野フェンス間際の打球も対象になる。ただ、大リーグに比べればほんの一部分に過ぎず、完全導入を求めるファンの声は多い。
ビデオ判定の拡大は、選手や首脳陣ら現場からは賛同する声が多い。審判内部からも「こちらから拡大して欲しいとは言えないが、負担が軽くなるのは確かです」と、後ろ向きな意見は少ない。
だが、プロ野球でもすぐに完全導入の流れになるかと言えば、そう簡単にはいかないようだ。その理由に挙げられるのが、MLBとの設備面での違いだ。MLBには各試合の映像が集まる「リプレー指揮センター」がニューヨークにあり、そこに配置された大リーグ審判が、各試合の映像をもとに最終判定を下す仕組みだ。
「リプレー指揮センター」は、億単位の資金を投入して設置されたシステム。さまざまな角度からプレーを分析でき、より正確な判定が可能となる。一方で、日本はCS放送の映像をもとに判定。地方球場では、映りの悪いテレビで判定する場合もあり、すべての球場で確実なジャッジができるかというと、疑問符がつく。
また、ビデオ判定に対する球団側の考えも、賛否両論あるのが実情だ。米国では日本より審判の権威が高いと言われているが「米国に比べ、審判のレベルは日本のほうが高い。そこまで拡大する必要はないのではないか」という意見や「審判の判定も含めて野球。ビデオ判定が続いて、プレーが途切れるのはどうか」と、話す球団幹部もいる。
ただ、大リーグではビデオ判定での“間延び”対策もしっかり取られている。両チームがビデオ判定を求めることができるのは1試合に1度だけ。アピールが認められて判定が覆った場合は、もう1度だけ要求できる。
今後、大リーグの影響もあって、プロ野球でもビデオ判定の完全導入を求める声は高まるだろう。球界関係者は「大リーグのようなシステムを設置できなくても、地方球場も含めてCS放送に加入して、録画機器の設置をすれば問題ないだろう。数百万円でできる」と話す。
かつて、スポーツの世界では“審判の判定は絶対”と言われた。その概念は、時代とともに変わりつつある。
(デイリースポーツ・佐藤啓)