イチロー Tシャツの裏のおもろイイ話

 白いTシャツの胸のところ。描かれていたのは、「4000」の数字の上を一列に並んで闊歩(かっぽ)する9人の男と、なぜか1頭のゴリラだった。先頭を行く細身の男がもつアタッシュケースからはドルのお札がこぼれ、宙を舞っている。

 2月19日、フロリダ州タンパ。野手組のキャンプインを翌日に控えたヤンキースのイチローが球団施設に現れた。サングラス、丸刈り、Tシャツ、ロールアップのジーンズ、…。とりわけ、取材現場で話題になったのがTシャツのデザインだった。

 関係者によれば、イチロー発案のオリジナルだという。きっかけは、昨年11月、イチローがオフの生活拠点としている神戸での出来事だ。シーズンを終えて帰国したイチローを待っていたのは、毎年、自主トレのサポートをしてくれている仲間たちからのプレゼントだった。

 日米通算4千本安打達成へのお祝い。手渡されたリモアのアタッシュケースを開けて驚いた。ドルの札束がびっしりと敷き詰められている。しかし、よくよく見ると、全部1ドル札。目の前にある4千枚のお札にイチローがすかさずツッコミを入れる。

 「ヒット1本、安っ!」

 とはいえ、映画やドラマの中でしか見られない代物だ。このままの状態で保存したいを考えるのがイチローのいいところ。早速、金庫の購入を思い立つが、値段を知って唖(あ)然とした。ドル換算で1万ドル。4千ドルを守るために1万ドルの金庫って…。

 この一連のストーリーをTシャツに‐。依頼を受けたのは昨年の“カツサンドTシャツ”も手がけている女性デザイナーのSACO(さこ)さん。神戸の仲間たちも一緒に描いてほしいとのイチローのリクエストから映画「オーシャンズ・イレブン」をイメージしてデザインしたという。

 背景に描かれているのは六甲山やホテルオークラの神戸の街並み。先頭を歩く男はイチロー本人。そのあとに続く9人は、最後尾のゴリラも含め、一人ひとりの顔の特徴をよくとらえている。Tシャツの背中には1万ドルの金庫のイラスト。しっかりオチもついている。

 同選手の大ファンだというSACOさん。マニアぶりを存分に発揮しているのがお札の部分だ。記されているすべての紙幣番号がイチローのヒットにまつわる日付になっている。日米通算4000本安打、プロ初安打、メジャー10年連続200安打、など。まさにこだわりの逸品だ。

 できあがったTシャツは渡米の前日にサプライズで神戸の仲間たちに披露された。

 「神戸のメンバーとの絆はすごく深い。彼らになにかで喜んでもらいたかった。このTシャツは僕からの彼らへの感謝の気持ちです」。

 メジャー14年目のスタート地点。身につけていた白いTシャツにはイチローの熱い思いが詰まっている。

(小林信行)

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