阪神の新クローザー・呉昇桓（オ・スンファン）投手が、初めての日本の春季キャンプを完走した。韓国通算２７７セーブを挙げた絶対守護神とは一体、どんな投手なのか‐。キャンプではファン、メディアが熱視線を注いだが呉昇桓は落ち着き払い、常に冷静だった。１カ月間、淡々と韓国時代から続ける独自の調整法を貫いた。

　ブルペンでの投球は圧巻だった。独特の投球フォームから投じる剛速球。「石直球」の名の通りズシリと重く、周囲の度肝を抜いた。

　周囲を驚かせたのは、投球だけじゃない。２月１０日。ブルペン入り翌日の完全ノースローに報道陣は騒然となった。キャッチボールを外れ、ノックでもトスで返球。「韓国の時からブルペンで投げた次の日はノースローでやってきた」。本人がそう言うなら、問題ないのだろうと、周囲はホッとしたのだが…。

　翌１１日も宜野座ドームはざわついていた。この日も呉昇桓はキャッチボールを行わず、２日連続のノースローを敢行したのだ。１２日は練習が休日だから、３日連続でノースローになってしまう。さすがに中西投手コーチも心配顔になったが、石仏は「予定通り。どこか悪いとかではない。韓国でやってきた調整なので」と強調した。

　ベールを脱いだのは１５日の紅白戦だ。新井にスライダーを左翼席に運ばれ１回２失点。それでも「今日は練習のようなもの。打者を立たせたというだけ」とサラリ。登板の前にはチームの攻撃が長くなったため、腕立て伏せで準備する場面も。これも「韓国時代からやっている」と涼しい顔だった。

　キャンプ最終クール。担当の山本スカウトは「ここまで順調にきている」と満足そうに話した。「本人と監督、コーチと話して、自分流で調整すると決まっているからな。ここにきて状態を上げている」と明かした。

　その言葉通り徐々にギアも上がってきた。２度目の登板となった２５日の韓国・ＬＧ戦は１回を１安打無失点。球場スピードガン表示が甘かったとはいえ、代名詞の「石直球」は１５５キロを記録した。直球で２三振を奪い、「真っすぐで三振を取れたのは良かった」と手応えを得た。

　チームにもすっかり溶け込んでいる。後輩からは韓国語で“アニキ”を意味する「ヒョンさん」と呼ばれ、練習方法も惜しみなく伝授した。連日のメディア対応にも笑みを交えてジョークで返す場面が増えてきた。石仏もマウンドを降りれば、気のいいアニキだ。

　威力抜群の石直球、独特の投球フォーム、そして自分で考えて練習する独自の調整法。周囲に新鮮な驚きを与え続けた春季キャンプだった。開幕まであと１カ月。本領を発揮するのはこれからだ。

（デイリースポーツ・杉原史恭）