あの名将の「ジュニア」がJ2讃岐入り

 偉大な親を持つ子供は、小さいころから注目を浴び、望んでもいないのに比較され、回りからプレッシャーをかけられる。

 野球界では長嶋父子や野村父子、角界では若貴兄弟が代表例だが、政界でも2世議員は何かと批判の的になり、芸能界の2世タレントたちは、実績もないのに脚光を浴びると、茶の間から「親の七光」なんて陰口をたたかれる。彼らは我々凡人の子が想像もできないような苦しみを、たくさん経験しているに違いない。

 創設から20年がたったJリーグでも近年、「2世」が増えてきてた。

 J2に昇格したカマタマーレ讃岐には今季、法大出身のDF森保翔平(22)が加入した。父はJ1広島の森保一監督(45)。元日本代表ボランチで、指揮官としても広島をリーグ連覇に導いた名将だ。

 もちろんわれわれ報道陣は、蛙の子が蛙なのかを確かめるために、チーム合流初日から「森保ジュニア」の一挙一動に注目した。

 森保が生まれたのは1991年。父がドーハの悲劇で涙したのは2歳のときだった。サッカーを始めたのは小学1年。当然のことながら、森保少年がボールを蹴る姿には多くの視線が集まった。

 父の移籍にともなって小学2年時に広島に引っ越したあとは、広島ジュニア、広島ジュニアユース、広島ユースとサンフレッチェ一筋。法大では主将も務めた。

 幼少時を思い出し、森保は「父からサッカーを教えてもらった記憶はほとんどないですね」と笑う。自宅でグラウンドで、父がサッカーに取り組む真摯な姿を見て多くを学んできた。「サッカーに対して父は本当に真剣で熱い。すごく尊敬しています」。ためらいなく言い切ったその言葉に、父と子の固い絆がうかがえた。

 Jリーグ入りを目指し、森保は昨年から仙台、大分、岡山、北九州に練習生として参加した。だが現実は厳しく、どこも契約には至らなかった。

 讃岐が5クラブ目。「これが最後」の思いで必死にアピールした。願いは通じ、リーグ開幕まで1週間に迫った2月23日、讃岐加入が発表された。北野誠監督(46)は「森保ジュニアだから獲ったわけではない。スピードがある選手。ウチのサッカーはスピードが命だから、楽しみにしています」と期待を寄せた。

 夢のJリーガーとなった森保ジュニア。広島に帰り、契約が決まったことを父に報告すると「よかったな。頑張ってこいよ」と短い言葉で励まされたという。合流初日の練習が終わると「これからチャンスがある。運動量と粘り強い守備をアピールしたい」と目を輝かせた。右サイドバックのポジションでレギュラー入りを目指す。

 サッカー選手としての父の背中は、まだはるか遠く先にある。その背中に近づくために、J2に昇格したばかりのクラブからスタートを切る。周りはこれまで以上に父と比較したがるかもしれない。それも十分に覚悟しているだろう。「ジュニア」の宿命を背負いながら突き進む森保の成長を見ていきたい。

(デイリースポーツ・浜村博文)

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