ラグビー~パナソニックの強さに敬服

 第51回ラグビー日本選手権決勝戦は9日、パナソニック‐東芝で争われ、30‐21でパナソニックが快勝してトップリーグと合わせて2冠を達成した。前身の三洋電機を含めると4季ぶり4回目の優勝だが、パナソニックとしては初の日本一となる。

 三洋時代の45~47回大会を3連覇していたが、この時はいずれもトップリーグのプレーオフで優勝を逃しており、意外なことに2冠達成も初めてとあって、記者会見では中嶋則文監督も「本当に光栄。国立競技場での最後の日本選手権で、価値のある試合ができたと思う」と感慨深げにコメントした。

 常に優勝候補に挙げられながら、ここ数年はタイトルをあと一歩のところで逃していた。今季もトップリーグのファーストステージ序盤ではキヤノンに18‐23で敗れ、続く試合ではヤマハ発動機と14‐14で引き分けるなど、なかなか調子が上がってこなかった。

 そこからきっちりと軌道修正して、その後は15連勝という無人の野を突っ走るような勢いでタイトルを手中にした戦いぶりは、見事としか言いようがない。

 もちろん戴冠の原動力となったのは、元豪州代表のSOベリック・バーンズの加入が大きかったのは間違いない。日本代表SH田中史朗が、「とにかくボールを預けてしまえば何とかしてくれる」と言うほど絶大な信頼感を寄せる司令塔。的確な状況判断でアタックを仕掛け、さらに正確無比なキックでエリアを進める。

 距離、角度ともどこからでも狙えるゴールキックも大きな武器となった。特に東芝との決勝戦では、リードされた後半に2つのトライの起点となり、終了間際には48メートルのPGを決めて勝負を決定づけた。

 股関節を痛めていて万全のコンディションでなかったというが、まさに八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍。トップリーグのMVPに選ばれたのもうなずける貢献ぶりだった。

 ともすれば、大方の予想では、トップリーグのファイナルで争ったサントリーが決勝に進んでくると想定していた部分もあったはず。そのサントリーを1点差で下した東芝とは、何と今シーズン4度目の対戦となる。

 しかも成績はパナソニックの3戦3勝、2月に行われたプレーオフのセミファイナルでは55‐15で圧勝している。“また東芝か”と考えても無理もない状況で、前半に許した2トライはパナソニックらしからぬ守備のほころびが生じていた。

 しかし、後半にきっちり修正できたのは、選手間のコミュケーションの成果という。10‐14とリードを許してロッカールームに戻ってくると、コーチ陣に指摘される前に選手同士で「後半もこんな戦いをしていたら絶対に後悔する」と声が上がった。

 バーンズも「東芝は準決勝で勝った勢いを前半にぶつけてくるはず。だから焦りは全くなかった」と振り返る。中嶋監督はトップリーグのプレーオフに突入した段階で、外国人コーチの進言もあり、フィールドでのアドバイスを極力控えるようにしたという。「ストレスですか?選手を信頼してましたから感じなかったですよ。取り組んできたことが、決勝という最高の舞台で生きましたね」とチームの成熟ぶりに満足そうに笑みを浮かべた。

 田中に加えて、フッカー堀江翔太も世界最高峰のスーパーリーグに参戦。堀江はキャプテンを務めていたが、トップリーグのファイナルを終えるとチームから離脱。日本選手権には出場しなかった。

 堀江不在時にゲームキャプテンとなったWTB北川智規は、「うれしいというよりホッとした。決勝は今シーズンで一番タフな試合だった」と本音を吐露した。それでも、誰かが抜けても戦力が大きくダウンしないのは、選手層の厚さの証明でもある。

 フランカー西原忠相、FB笹倉康誉が力強く飛躍、トップリーグ新人王に輝いたプロップ稲垣啓太は日本代表にも選出された。「今後は追われる立場になる。常に進化しないと、すぐに追いつかれる」と、中嶋監督は早くも来季以降を見据えた。パナソニック黄金時代を築くために、さらに高いレベルを追求していくことになる。

(デイリースポーツ・北島稔大)

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