新庄、時間の限られた進学校の練習とは
第86回選抜高校野球大会で、新庄(広島)が25日、初戦で東海大三(長野)を6‐0で下した。初出場で掴んだ初勝利だ。
チームを指揮するのは、三菱重工広島の監督として都市対抗野球で優勝。広島商で2度、甲子園出場経験がある迫田守昭監督(68)。兄は広島商の監督として夏の甲子園で優勝し、現在は如水館で監督を務める穆成(よしあき)氏だ。
新庄は広島県北部に位置する。北部地区では有数の進学校。一方で野球部は全く無名だった。そんな学校の強化を託されたのが迫田監督。「今までと全然違う。だからやれたと思う。勝利を宿命づけられ引かれたレールがない。このチームを強くしたいと思った」。06年秋にコーチにつくと、1年後の07年秋に監督に就任した。
名門・広島商とは全く異なる環境に当初は驚いた。コーチになり最初にグラウンドに出たとき、集まった選手はわずか数人だった。「部員は20名くらい。でも全員の顔を見るのに1カ月はかかった」。国公立大への進学を希望する選手もいた。練習時間になってもグラウンドに姿がないのは当たり前だった。
学校がある北広島町は、県内最多6カ所のスキー場がある豪雪地帯。冬場は降雪のためグラウンドは使えない。練習は室内練習場。さらに学校は週3回、7限目まであり、平日の練習時間は2時間程度だ。
指導には長年の経験が随所にちりばめられている。打撃練習は3球で交代。常に実戦を意識させ、ランナーや場面を想定しながらバットを振らせる。「アマチュアは負けたら終わりの世界。1球への集中力を高めたい」。練習量もさることながら、質にもこだわりをみせる。
選手に対する接し方も、以前とは異なる。今年で69歳となる。年齢を重ね変化した。血気盛んだった時代は鉄拳を振るったこともある。「社会人時代は、練習前にグラウンドを数十周走らせていた。自分が厳しくして全国へ連れていくんだという気持ちだった」。強い使命感を抱き、先頭に立った。
今は違う。「選手の自主性に任せることがほとんど。感謝の気持ちがあるし、彼らから教えられることもある。それが年をとった最大のメリット」。厳しさを持ちながら、杜の行く末をも守る大樹のように温かい視線を送る。
就任8年目で勝ち取った甲子園で初勝利を手にした。「ひのき舞台で選手がのびのび戦ってくれた。僕は何もしていない」。柔らかい表情が印象的だった。
(デイリースポーツ・市尻達拡)