ロッテの新人4番井上はなぜドラ5?
「4番・指名打者 井上」‐。3月28日、ソフトバンク戦。ロッテのドラフト5位ルーキー・井上晴哉内野手(日本生命)は、1950年の戸倉勝城(毎日)以来、球団史上64年ぶりとなる新人開幕4番に名を連ねた。
アジャ・コング似の風貌に、体重114キロの巨漢。当初はそのキャラクターで話題先行だったものの、実力で栄えある“主砲”の座をもぎ取った。
不動の4番・今江が故障離脱する想定外のアクシデントがあったとはいえ、12球団に広げても、ドラフト制以後の新人開幕4番は03年の後藤武敏(当時西武)以来、史上2人目。堂々の快挙といっていい。
球史に名を刻んだ井上は、大学、社会人を経た即戦力であるものの、ドラフト上位ではなく、5位でのプロ入りだった。
社会人の名門・日本生命で4番を務め、豪快な長打力には定評があったが、守れるポジションは一塁。プロ入り後はおのずと、外国人選手との定位置争いになる。日本人選手の場合、パワーではどうしても、助っ人と比べ引けを取ることが多いうえに、特にDH制のないセ・リーグでは、出場機会も大幅に限られる。多くの球団の場合、優先順位としては消極的にならざるを得ないのが実情だった。
そんな中で、ロッテは、担当の下敷領スカウトが2年間、足繁く井上のもとに通った。ともに視察した松本編成統括が振り返る。「彼が大学を卒業して、日本生命に入ったばかりの宿毛キャンプでした。打撃練習を見ていたら、これはすごいパワーの持ち主だなと。8割が柵越え。外国人にも匹敵するパワーを持っているなと感じました」。日本人離れした打撃力に、狙いを定めていた。
そして昨秋、スカウト会議で井上の映像を見た伊東監督が、指名を後押しした。そのパワーも柔らかさも兼ね備えた打撃技術、何よりスイングスピードの速さに目を見張ったという。
ドラフト当日は、1位で石川(東京ガス)を巨人との競合の末に引き当て、2位で即戦力捕手・吉田(立正大)の獲得に成功。上位指名を戦略どおりに終えると、他球団の“強奪”の可能性が低かった井上を、5位で指名することができた。
無事に獲得した逸材は、スカウト陣のお眼鏡通り、助っ人ブラゼルに勝ち、見事に4番の座を射止めた。
注目の開幕戦では、4打数無安打2三振。2戦目も3打数無安打2三振で、3戦目には「4番・DH」の座をブラゼルに譲った。いきなりプロの洗礼を浴びた格好だが、まだ第一歩を踏み出したばかり。
松本編成統括は言う。「一番怖いのはケガ。144試合を活躍できるスタミナを本人がどう感じて、体力を付けていくか。彼の場合、あの体重でもキレがあるから打てる。だから、体重をキープしながら、いかに144試合を戦えるスタミナをつけるか。経験しないと分からないこと。だから、この1年間の経験が重要になる」。
百選錬磨のスカウト陣と指揮官が、自信を持って選んだスラッガー。厳しい世界を乗り越えることができるか。
(デイリースポーツ・福岡香奈)