楽天・福山 De戦力外は貴重な経験
さまざまな苦労を乗り越えて、初勝利をもぎ取った。楽天の福山博之投手(25)。4月6日のソフトバンク戦(コボスタ宮城)でプロ初勝利。横浜(現DeNA)、楽天の足かけ4年目でようやく手にした白星だった。
DeNAは2年で戦力外。50メートルは6秒フラット。足の速さから、内野手転向を勧められた福山はこれを拒否。ルーキーの2011年から19試合に登板。1軍出場もしたのに、2年で解雇というのは異例と言える。実際、周囲からは「どうして?」という声が多かったそうだ。
その現状に、福山は落ち込むそぶりは見せず、投手として次の場所を見つけるために切り替えていた。そう振り返るのは、福山と同い年の高森勇旗氏。現在はライターとしても活躍する同氏と、大原淳也、小林公太、そして福山の4人は、同時期に戦力外通告を受け、現役続行を目指して4人で汗を流した。
10月の頭から、11月の中旬まで、約1カ月間、ベイスターズ球場で練習。
「シート打撃はサブ(福山)が投げて、僕が捕手。大原さんが打つと。あしたは何時ね!と約束して帰る、それが1カ月くらいありましたね」。
戦力外。野球選手が終わるかも知れないという時に、野球本来の楽しさを知った。実際、福山以外の3人はプロの球団からオファーはなく、高森氏は引退を決断した。でも当時を振り返る同氏は、実に生き生きとしていた。
「悲壮感はゼロでした。誰にも縛られず、ミーティングもありません。練習終わったら、球場の横にある横須賀の海にみんなで飛び込んだりして。本当に夢のような時間だったです」。
福山はその時期に、高森氏が言った言葉を今でも覚えている。「次が決まっても決まらなくても、この期間練習したことは、次の新しいところに行った時の財産になる。この先を考えて、練習していこう」。初勝利を終えた福山は、あの時のことについて「大切な時間ですよ」と胸を張った。
初勝利を挙げたどころか、今は楽天の勝ちパターンの一角を担っている福山。「古巣を見返したい気持ちはあるか?」という質問には「それはないですね。僕を、プロ野球選手にしてくれた所なので」と言い切った。独特の鋭い眼光の通り、今も昔も、福山は常に前だけを見ている。
印象に残っているのは昨年のアジアシリーズ。台湾のホテルで、参加球団が集うパーティーが行われた。そこで福山はチーム関係者らにあおられてステージに上がらされると、物おじすることなくダンサーに混じって踊り出した。大ウケだった。
翌日、星野監督も大絶賛。北島三郎似ということで相性は「サブ」。どんなムチャぶりも笑いに変えてしまう。プレーにつながるものではないが、野球選手として、重要なスキルだと思う。
苦労の数だけ、気づくことがある。苦労しないと、わからないことがある。この4年間の経験が今、福山博之を飛躍の舞台へ導いている。
(デイリースポーツ・橋本雄一)