長谷川穂積は“死に場所”を探していた

 日本ボクシング界のエースとして君臨してきた長谷川穂積(真正)の壮絶な最後だった。4月23日、大阪城ホールでの3年ぶり世界戦。IBF世界スーパーバンタム級王者のキコ・マルティネスに挑み、めった打ち。レジェンドは右眼窩(がんか)底、鼻骨を骨折、7回TKOで散った。

 強打の王者相手に1回を作戦通り、足を使いポイントを取った。関係者もセコンドも高い防御力、カウンターの技術は通用する手応えは得たはずだった。

 ところが2回だ。長谷川は果敢にと打ち合いに転じた。猛烈な連打を浴びダウン。結局、このダメージが致命傷になった。3回以降、左ボディーで応戦したが、王者の前進を止められない。4回には左目上をカット。流血、フラフラになり、7回に2度のダウンを奪われ、崩れ落ちた。

 超一流の攻守の技術で世界王者に輝きながら、ラスベガスの試合にあこがれ、魅せる打撃戦を常に求めた長谷川。最後の一戦は勝負より自らの生き様を貫いた結果だった。

 思えば長谷川は“死に場所”を探すかのようだった。気持ちが折れかける寸前でようやく決まった世界3階級制覇への挑戦。2月11日、東京で行われた会見では「長い3年だった。どんな結果でも受け入れる覚悟。負けてもボクシングが好きなように終われるように。万が一、結果が出なくても仕方がない」と口にし、勝利への強い欲求はなかった。

 同2月18日、鹿児島・沖永良部合宿でも「今回はこの試合をやり切るのが目標。結果は求めていない。勝っても負けても笑っていたい。テレビでボクシングは見なくなった。興味は薄れているのかな」と漏らした。

 常に考えていたのは第2の人生。「ここ1年で考えるようになった。40歳までやれると思っていたけどそうじゃないと思う年頃。子供が卓球をやっているので、卓球を家で教えようかな。嫁はんと何か商売ができたら」と、夢を語った。

 元プロボクサーでボクシングを幼少期に教えた父・大二郎さん(58)は試合後、息子と電話で話し「もう辞めろよ」とだけ伝えた。

 父子2人の夢だった世界王者になりWBC世界バンタム級王座を10度も防衛し、世界2階級も制覇した。進退は明言していないが、33歳、引き際を誰より感じているのは長谷川自身だろう。

 指導者の道は頭にないが長女・穂乃ちゃん(8)は何とボクシングに興味を持っている、という。「女の子だしね。やらせませんよ。女の子が顔を腫らすのは見たくない」とパパは断固反対の考え。ただ頑固なまでに己の信念に従った男の血が受け継がれているのは確かだ。

(デイリースポーツ・荒木 司)

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