大久保嘉人 覚醒した得点力の秘密は…
ブラジルで行われるサッカーW杯の開幕まで1カ月を切った。21日からは日本代表も鹿児島県内で合宿をスタートさせるなど、本大会に向けて動き出している。23人のメンバーが選ばれた12日の代表発表では、Jリーグで結果を残し続けていたFW大久保嘉人(31)=川崎=が選出されたことが大きな話題にもなった。
昨季の大久保は、新天地となった川崎の初シーズンで、33戦26発という抜群の成績を残して得点王に輝いた。その背景には、MF中村憲を筆頭にした、パス供給役との相性の良さもあったが「川崎に来てサッカー観が変わった」と大久保が語るように、長らく眠っていた得点力が、川崎移籍をきっかけに“覚醒”したという部分もある。
変わったという、サッカー観。その中身については「うまく説明できんけど」と苦笑いしながら「点の取り方が分かったというか、がむしゃらに動きまくらなくても、チャンスを呼び込むことができるんやなって思えたことかな」と説明してくれた。昨季は主に1トップとして、フィニッシャーとしての役割に全うする環境が、得点力を呼び起こすことの助けになった。
大久保自身は「もっと早くこういうチームに来ていれば」と冗談じみて語る一方で、神戸での経験も躍進の一助になっている。川崎入りの前から、代表などで共にプレー経験のある中村憲はこう語る。「ウチに来る前の嘉人は、とにかく何でも自分がやらなきゃという意識でやっていた気がする。球が回っていなければボールも受けに来るし、前線で体を張るのもやるし、シュートも自分で打つ、というイメージだったかな」。神戸時代は、役割が多岐にわたったことで「フィニッシュの時には力が残っていないなっていうシーンもあった。だからかは分からないけど、試合中の嘉人は常に何かにイライラしているように見えた。自分のプレーだったり、試合の流れだったりいろいろね」と対戦相手の目から振り返る。
そして、現在はチームメートになったことで「何でもやらなきゃいけない環境だったからこそ、何でもできる選手になったのかもしれない。あそこまでウチのサッカーにハマるとは、最初に来るって聞いた時は正直思わなかったけど、キャンプで練習して、1トップに入ったあたりからこれはいけるぞ、と」。神戸時代に多くの“引き出し”を作ってきただけに、点を取る作業に集中すると色んな形で点を取れる。持ち味である、相手DF裏への鋭い飛び出しだけでなく、昨季「コツをつかんだ」と鮮烈なミドル弾を連発し、ゴール数を伸ばしたのは記憶に新しい。
「4年前に比べて、間違いなく成長している。これをW杯で代表に生かしたい。ポジションやスーパーサブとかはどこでも良い。そこでやれる自信あるから」と切望していた大久保。もちろん、得点だけではなく、4年前のように豊富な運動量とチャンスメークも大きな武器となる。いわば“大久保嘉人史上、最高傑作”。そのパフォーマンスに注目したい。
(デイリースポーツ・松落大樹)