OB小林至氏が示す東大野球部強化案
東大野球部が長いトンネルから抜け出せない。10年秋、早大1回戦で斎藤佑樹(現日本ハム)に土をつけたのが最後の勝利。現役部員で勝利の味を知る者はいない。今春はついに連敗のリーグワースト記録を「70」から「76」まで更新した。
前回70連敗を記録したのは、87年秋~90年秋。当時のエースが東大出身3人目のプロ野球選手となった元ロッテの小林至氏(現ソフトバンク海外担当兼中長期戦略担当部長)だ。87年入学の小林氏は東大では0勝12敗だったが「僕らの時は今思えば金縛りみたいな感じでした。最後の最後にひっくり返されるみたいな」と振り返る。
小林氏は「方法は三つ」と東大野球部の強化案を示した。「一つは留学生作戦。箱根駅伝と一緒」と説明。野球部の場合はキューバ人などの留学生を入部させる案だ。「留学生は入学試験もありますが、一般入試とは形が違いますし、何とかなるのではないか」という。「学内には留学生がいっぱいいます。むしろ今は強化しています。これはできるはず」と、95年秋に女性選手として初めてリーグ戦登板した明大のジョディ・ハーラーの例を挙げながら説明した。
次は基本作戦だが、リクルートのさらなる強化だ。かつては東大だけでなく、早大、慶大、立大にも一般入試から入部する選手が多かった。「今は(スポーツ推薦枠などが増え)一般受験生が早、慶、立では試合に出るのが厳しい。昔は東大に行かなくても、早慶戦に出たい。六大学で活躍したい。ガリ勉して、ましてや浪人までして東大に行く必要がないということだった」。県立の進学校である厚木高から一般入試で立大に進んだ川村丈夫投手(元横浜、現DeNAコーチ)の名前を出して「彼のような投手は来てくれなかった」と話す。
「ギリギリ何とかなったのが松家(元横浜、日本ハム)でした」という。慶大に進む予定だった松家卓弘投手を東大OBが説得。「浪人はしないけど、現役で受かるのであれば」と返事をもらった。そして猛勉強の末、現役で合格して東大野球部の門を叩いた。
松家投手とは逆の例が今秋のドラフト候補に挙げられている京大のエース田中英祐投手だ。小林氏は「京大に入るんだから、東大にだって普通に入ったと思います。ああいう選手を取り逃さないというのが大事」と話す。
東大受験については「長い期間かけて知識を積み重ねないでも、コツなんです。私大の方がむしろ知識は必要」と力説。小林氏自身も偏差値40台からのスタートだったが、一浪で東大に合格。「効率よく勉強すれば受かります。『ドラゴン桜』を読んで、本当に自分がやっていたのは正しいと思いました」と明かす。「ドラゴン桜」とは東大受験のノウハウを説いた人気漫画で、05年には阿部寛主演でドラマ化もされた。
「プロ中のプロをつけて、徹底的に勉強のコツを教える。さらに入学後の試験対策や就職も含めたライフプランを用意する。昔なら早、慶、立でやりたいと思っていた人が、今はもう試合に出るのが難しい。そういう子たちを説き伏せる。これが2点目」と話す。
3点目は留年前提の作戦だ。「(強豪の)京大アメフット部が昔やっていましたが、入学してすぐに部員登録しない」という。「ガリ勉で体が衰えているので最初の2~3年は体を鍛える。僕もようやくサシで本当に戦えると思ったのは4年の時です」と振り返る。「京大では2年間は部員登録しないでとにかく鍛える。2年留年して、そこから4年間。3つ目が京大アメフット部作戦です」と説明した。
小林氏が示す強化策はいずれも早期に結果を得られるものではない。現役部員は今春入部した1年生を加えて、今秋には連敗脱出を期してリーグ戦に挑まなければならない。
同じ連敗地獄を体験しているからこそ、小林氏は現役部員を温かい目で見守っている。「甲子園で活躍するような、高校の時には相手にもしてくれなかった人たちとサシで勝負ができる。その喜びをかみ締めながら、負けてもともとなんだから、一つ食ってやれという気持ちでやってほしい」とエールを送る。
東大の先輩たちは連敗以外でもたびたび注目を浴びてきた。次の“赤門旋風”の再来はいつか。現状を心配しているのは小林氏らOBだけではない。強い東大野球部を期待するファンは多い。
(デイリースポーツ・斉藤章平)