香川と柿谷 C大阪同期生が物語を紡ぐ
6月2日、コスタリカ戦。日本が同点に追いつき1‐1で迎えた後半35分だった。FW柿谷曜一朗がワンタッチで落としたパスを受け、FW香川真司がドリブルで仕掛ける。ペナルティーエリアの入り口付近で香川が送った鋭いパスを、柿谷は左足の柔らかいタッチで返す。香川のファーストタッチはやや足元に入りすぎたが、体勢を持ち直し決勝点をゴール右隅に流し込んだ。
後半47分にダメ押しとなるゴールも挙げた柿谷は「真司君が得意なプレーなんで。しっかり自分も囮(おとり)になってやれた」と振り返った。
思い起こされるのは同じく1得点1アシストを記録した昨年11月のベルギー戦。2‐1の後半18分、MF長谷部が縦に入れたパスをペナルティーエリア内で受けた柿谷は、右足ダイレクトで小さく浮かせてFW岡崎が走り込む時間を作り出した。幼い頃から柿谷を知る中田仁司氏(現徳島強化部長)が「あれこそが曜一朗」と語った絶妙のアシストだった。裏に抜ける動き出しだけではなく、限られた時間とスペースの中での正確なワンタッチコントロールも柿谷の魅力の一つだ。
香川と柿谷のコンビネーションでゴールが生まれたのは、ザック・ジャパンではもちろん初めて。C大阪時代まで遡ると、07年10月14日J2京都戦で香川のパスを柿谷が決めて以来7年ぶりとなる。
高校3年でプロ入りした香川と、クラブ史上最年少の16歳でトップチーム昇格を果たした柿谷。2人は06年、C大阪に同期入団した。そろって在籍していた3年半の間、同時出場したのは35試合。ともに先発出場したのは14試合だった。
スカウト時代、香川獲得に尽力し、コーチとしても2人をよく知る小菊昭雄氏(現C大阪強化部課長)は「彼らが出会う前から、当時の強化部は競わせようという狙いを持ってやっていた」と明かす。
「言葉には出さないが、すごく刺激し合っているのは伝わってきたし、練習でもバチバチやり合っていた。おそらく今も変わらず、いいライバル心みたいなものはあると思います。それは引退する日まで消えないかもしれない」。小菊氏は当時を振り返りつつ、そんなふうに2人の関係を語った。互いを認め合い、理解し合っているからこそ生まれたコスタリカ戦の連係だった。
現在もC大阪選手寮の寮長を務める秀島弘氏は、2人をイソップ寓話の「ウサギとカメ」に例えた。「ウサギは柿谷で、カメは香川。先に柿谷がデビューしたけど、香川が追い越した」。「ウサギとカメ」の話はC大阪FW南野らにも言い聞かせたという。
香川に遅れをとった柿谷だったが、12年に期限付き移籍していた徳島から復帰した際には寮を訪れ、「わがままを言って申し訳なかったです。今後しっかりやりますんで、よろしくお願いします」と頭を下げたという。「柿谷も大人になった」と穏やかに笑う秀島氏にとって、2人はかわいい孫のような存在だ。
寓話はカメの勝利で終わるが、2人の物語は続いていく。眠りから覚めて走り出した柿谷だが、香川はまだ、少し先にいる。そろって桜のユニホームに袖を通してから8年。初めてのW杯で、2人はどんな物語を紡ぐのだろうか。
(デイリースポーツ・山本直弘)