衰え知らずのカープブーム
広島市内の大型書店の一角には、「カープ本」と呼ばれる書籍が何十種類も積まれている。コアなものから、初心者向けのものまで、多種多彩。私は4年前に東京から広島に赴任したが、当時は見られなかった光景だ。
いまや「カープ」は広島県の枠を超え、一つの社会現象になっている。「カープ芸人」、「カープ女子」…。こんなことは他球団にはないことだ。つい先日だが、練習中のグラウンドに異質な光景があった。今村がモジモジしながら写真撮影を受けていた。なんと取材の主は有名女性誌。「恥ずかしい」と照れ笑いを浮かべながら、今村はカメラマンの要望に応えてポーズを取っていた。
球団関係者に聞くと、「こんなのは初めて」だという。野球界とは異質の業界からのオファー。しかもそれが全国の女性に愛読され、人気男性俳優やアイドルを掲載している有名女性誌とは…。「カープ女子」のブームに乗っかったものだが、ついにここまで来たのかと、何だか驚きも通り越した。
野球人気の低下に伴い、以前から各球団が女性ファン獲得に必死だった。あれは10年ぐらい前だったか、当時私は巨人担当をしていたが、その時、球団か雑誌社かどちらからオファーしたかは不明だが、女性誌に巨人の選手が取材されていた。球団は女性ファン獲得を一大プロジェクトに掲げ、いち早く東京ドームに「女性専用シート」を取り入れたほど。しかし「ジャイアンツ女子」という言葉は、後にも先にも聞いたことがない。
野球雑誌の大手で編集長を務める大学時代の同級生と話をする機会があった。すると「今、ウチの主力は広島とドラフト。巨人や阪神では苦しいんだ」と複雑な表情で語っていた。ドラフト特集には固定ファンがいるが、それ以外は売れ行きがよくないらしい。ただ昨年あたりから広島が特集されるとやたら売れるというのだ。
私個人の感覚だが、4年前のカープの印象は、男臭い感じだった。2011年の開幕スタメンは、
1(遊)梵英心
2(二)東出輝裕
3(右)広瀬純
4(三)トレーシー
5(一)栗原健太
6(左)岩本貴裕
7(中)赤松真人
8(捕)石原慶幸
9(投)前田健太
とこんな感じ。対して今年の開幕スタメンは
1(中)丸佳浩
2(二)菊池涼介
3(右)松山竜平
4(一)キラ
5(遊)梵英心
6(左)エルドレッド
7(三)堂林翔太
8(捕)石原慶幸
9(投)前田健太
と一気に平均年齢が10歳近く若返った。
おそらく4年前までは、全国の女性に知られていたのはマエケンぐらいだろう。それが今では堂林、野村ら若手イケメンたちが活躍し、丸や菊池ら個性派の若手が脇を固めている。そして今年は、大瀬良や一岡ら“癒し系”も加わり、カープ女子が応援する選手の選択肢も増えた。
もちろんここまで火が付いたのは、昨年の大躍進があったからだろう。16年ぶりのAクラス、初のCS出場。カープは単なる“色もの”ではなく、優勝を狙える強い球団という付加価値も付いた。今年は昨年の経験を糧に、上位争いを演じている。もし23年ぶりの優勝を成し遂げるようならば、オフには空前の「カープブーム」が訪れるのは間違いない。
(デイリースポーツ・菅藤 学)