一岡の成功例 高まる移籍活性化の声
労組・日本プロ野球選手会(嶋基宏会長=楽天)が4日、日本野球機構(NPB)と労使折衝を行い、レンタル移籍やルール5ドラフトなどについて意見交換した。
選手会ではこれに先立ち、1軍だけでなく、2軍にいる選手の意見を集約。関係者は「広島の一岡選手のようなケースがあり、2軍の若手選手からは出場機会が欲しいという声が多かった。働ける選手は多いと思う」と話す。18日には選手会総会が控えているが、移籍の活性化を求める声はより高まりそうだ。
一岡は、昨オフにFAで巨人に移籍した大竹の人的補償として広島入り。巨人時代は主に2軍生活が続いていたが、広島では開幕1軍入りを果たすと、23試合に登板し、防御率0・78の好成績。現在は右肩関節炎のため2軍調整中だが、18日から行われる球宴にも初選出が決まっている。一岡の姿に自分の境遇を重ね合わせ、「チャンスが欲しい」と思う若手選手が増えるのは当然だろう。
レンタル移籍制度に関しては、選手会は以前から導入を要望。05年には12球団代表者会議でも議論され、本格的に検討された。だが、情報の漏えいを危惧する意見や移籍先で活躍した場合の査定などについて詳細部分がまとまらず、導入は見送られている。その後も選手会は要望しているものの、実現には至っていない。
「ルール5ドラフト」は、MLB(大リーグ機構)で行われている移籍制度。チーム事情などにより活躍の場を与えられていないマイナーリーグの有望選手を他チームが指名、獲得できる制度だ。韓国プロ野球でも、11年に導入されている。
大リーグでは、ロベルト・クレメンテ、ヨハン・サンタナ、ジョシュ・ハミルトンなど、超一流選手がこの制度をきっかけにメジャー昇格の道をつかみ、成功を収めている。現在、DeNAに在籍しているブランコも、同制度で他球団から指名され、移籍したという経歴がある。
日本球界ではいざという時には外国人の力に頼らざるを得ない状況。球団間でトレードを模索しても、選手の釣り合いが取れなかったり、若手の放出に踏み切れなかったりして、実現するケースは少ない。毎年、日本のプロ野球では100人を超える選手が球界を去っていくが、“旬”な時期に1軍へ昇格できず、そのまま辞めていく選手もいるだろう。
レンタル移籍、ルール5ドラフトともに、各球団の思惑や意見があり、実現は容易ではないだろう。ただ、一岡の例を見ても、はい上がる選手や若手が活躍する姿に心を打たれる野球ファンは多い。
近年、セ・リーグは05年に阪神が優勝して以降、巨人と中日しか優勝していない現状からも、戦力均衡が取れているとは言い難い。埋もれそうなスター候補を発掘するだけでなく、ペナントレースのマンネリ化を打破するという意味でも、移籍の活性化がファンの興味を引きつけるひとつの手段になるかもしれない。
(デイリースポーツ・佐藤 啓)