ビデオ判定導入前に問われる審判の姿勢
自分の非を認める‐。これまで見てきた審判員の印象を覆す、ある出来事があった。7月14日にナゴヤドームで行われた中日‐阪神戦。5‐3と中日リードの八回1死一、三塁から中日・和田が放った痛烈なライナーを、右翼・福留がギリギリで捕球したかに見えた。
東一塁塁審はアウトをコール。この判定に中日ベンチから谷繁監督が出て猛抗議した。すぐさま審判団が集まって協議した結果、アウトの判定が覆り、フェアとしてゲーム再開。本塁打のビデオ判定ならともかく、プレーが動いている中で判定が変わるのは異例中の異例だ。
試合後、東塁審はこう報道陣に説明した。「アウトと判定した僕に疑念が生じた。だから他の審判に聞いたんですけど、3人は全員、フェアの判定。僕が一番、悪い角度で見てしまったかもしれない」。これまで何度も微妙な判定を審判員に取材してきたが、ここまで素直に自らの非を認めた方はいなかった。
さらに「審判が協議して判定を変えることはルールとして認められていますので」と付け加えた東塁審。ではなぜ、今まで明らかな“誤審”であっても判定は覆らなかったのか。審判は不可侵という不文律が野球界にあり、判定ミスもまたプレーの一部として捉えられてきた歴史を持つ。
元阪神捕手の城島健司氏がかつて「審判の方もプロなんだから。ボール、ストライクとか判定に関してこちらからとやかく言うことはない」と語っていたように、お互いが同じ立場に立つことで信頼関係は保たれてきた。だが近年、首脳陣、選手への退場宣告数を誇る審判員も出てきた。審判は絶対‐。その意識が強くなりすぎた結末が、メジャーで導入されたビデオ判定、チャレンジ制度ではないだろうか。
今回の東塁審の判断に非を唱える現場関係者はいなかった。和田監督の「アウトのジャッジでプレーが変わったのでは?」という抗議にも、「アウトをコールしたのはセカンドへ送球した後です」と毅然とした態度で説明したという。
現場が、そしてファンが求めているのはあくまでも正確なジャッジ。協議した末に判定が覆っても、きちんとした説明や互いに非を認める姿勢があれば問題はない‐。それを示したのが、今回のケースだったのではないだろうか。
日本でもビデオ判定の是非が取り沙汰されている。その前に、現場と審判員が信頼関係を築いていけるような環境になれば…。ベースボールではなく、日本で育った“野球”だからこそ、可能性はあるのではないだろうか。(デイリースポーツ・重松健三)