マー君戦線離脱を予言していた星野監督
それを聞いたとき「本当にそうなってしまったか」というのが素直な感想だった。4月、メジャー初登板で初勝利を飾った田中将大投手。それをテレビで見届けた楽天・星野仙一監督は、勝利の祝福コメントを寄せた一方で、複雑な表情でこうも言った。
「ちょっと変化球が多い。捕手とのコミュニケーションもあるんだろうけど、変化球ばっかりで中4日。あれではケガするぞ」
それから3カ月、メジャートップの12勝を挙げる大活躍を見せた田中将が、右肘の違和感で離脱した。右肘じん帯の部分断裂。今後の経過次第では、じん帯の再建手術「トミー・ジョン手術」の可能性もあるという。
トミー・ジョンを受ければ、全治に1年を要する。投手にとって、1年間、投げられないということのストレスは計り知れない。
中4日というのは、5日に1度、先発の機会が回ってくるということ。メジャーの先発ローテ投手はこのケースが多い。逆に日本球界は1週間に一度、つまり中6日が主流となっている。間隔が短い分、その日に投げる球数は日本に比べて控えめだ。
全く別の機会の話だが、田中将の元チームメートでもある辛島航投手と、何気ない雑談をしていたとき、こう話していたのを思い出した。
「同じ球数投げるのでも、例えば6回で80球と、8回で80球、これはキツさが全然違います」。
投げ終わりで味方の攻撃を見守る。そのイニング数が重なれば重なるほど、肩や肘に蓄積されるダメージも増えていく。球数が少なければ何イニング投げても大丈夫というわけでもない。
楽天では、中6日でローテ投手を回した場合、登板日のだいたい2日後は完全オフが与えられる。球場に来る、来ないもその投手の自由である。逆にそれ以外の日は、次回登板日に向けたそれぞれのルーティンワークをこなしていく。日程の都合や、緊急事態に限って、楽天でも中4日を採用することがあったが、そうなれば完全オフなど取っている場合ではなくなる。
しかもメジャーの場合、日本よりも約20試合多い。いろいろな要素を鑑みても、その過酷さが容易に想像できる。
星野監督は「メジャーは遅れてる。中6日は長すぎるとも思うけど、中4日でどんどんピッチャーをつぶしてる」と語る。日本人でメジャーに旅立った投手も何人も受けているが、外国人投手も相当数、この手術を受けている。今のシステムでは人間の体に与える負担が大きすぎると、結果が物語っている。
「90%で成功する」「前よりもいい状態で戻れる」という話を聞いたことがあるが、どうしても違和感を感じてしまう。メスを入れることが、決していいこととは思えない。
田中将が負傷してから、ダルビッシュ有投手が中4日のシステムに警鐘を鳴らした。ケガをしていないダルビッシュが、離脱していった投手たちの分まで語る。そこにおとこ気を感じるだけでなく、その説明は実に理論的でもあった。
マー君が手術を回避し、今季の終盤、そして来年も元気に投げられることが一番。だがここで田中将がケガしたことは、現状を見直す何よりのサインなのではと思う。昨年まで4年間、田中将を取材させてもらった身としても、そうなることを願っている。(デイリースポーツ・橋本雄一)