フル回転で鯉投支えてきた中田の壁
今季の広島投手陣を支えてきた若者が、大きな壁に当たっている。今季6年目の右腕、24歳の中田廉だ。昨年までの5年間で登板は計57試合。全国的には無名だったが、今年は開幕から毎試合のように登板したことで、知っているプロ野球ファンの方も増えたかもしれない。
初の開幕1軍から同級生の一岡とともに、セットアッパーとしてフル回転してきた中田。すでに登板数は40試合を超え、未知の世界に突入している。一岡が6月上旬に右肩痛で離脱したことで負担が大きくなり、連投で体力は消耗。最近は失点が目立つようになった。
歯車が狂い始めたのは7月1日の巨人戦(マツダ)だったのではないか。大瀬良が5点を失ったが、打線が菅野を攻略し、6点を奪い逆転。そして1点リードの八回、中田がセットアッパーとして登板したが、坂本に逆転3ランを浴びて敗戦。この時からマウンド上での姿が変わったように感じた。
中田は野球に対して真摯に取り組み、いつも明るい。それ故、報道陣にも愛されている選手だ。普段はどこにでもいそうな若者で、気さくに記者と会話する姿もよく見た。だが、坂本の一発以降、明るい中田の表情は減った。何度聞いても「疲れていないですよ」と否定していたが、体力面に加え、精神面も疲弊していた。
実は7月中旬ごろ、熱中症の症状に見舞われ、病院で点滴を受けていたという。それでも投げ続けた。「1軍から落ちたくない」という“1軍への執着心”だった。昨オフ、被爆者施設への慰問を行った中田を取材した時、「来年(2014年)は絶対に開幕から1軍で投げたい。だから先発ではなく、リリーフ1本で行く」と話していた。それまで先発もリリーフもこなしていたが、1軍定着への近道はリリーフしかないと決断した。
年明けにはエースの前田にお願いして、一緒に自主トレを行った。その成果もあり、春季キャンプではキレのある球を投げ込んだ。誰よりも結果にどん欲になってアピールし、開幕1軍の切符をつかんだ。
このチャンスを逃したくない思いで、必死に投げてきた。だが、体力、精神力ともに限界のように感じる。春先のキレはなく、投げている姿も痛々しい。オールスター後も疲れは取れず、7月26日の阪神戦(マツダ)で上本に被弾、同29日の中日戦(マツダ)では松井佑に被弾。体力的にも精神的にもどん底だった。
ギリギリの精神状態で投げていることを示したのは、8月1日の巨人戦(東京ドーム)での登板だ。延長十二回、広島の勝ちはなくなり、負けか引き分けしかなくなった場面でマウンドに上がり、阿部、ロペス、高橋を抑えた。想像以上の重圧だったのだろう。中田は登板後、ロッカー室で涙を浮かべたという。
ただ厳しい言い方だが、その精神状態で毎日リリーフとして投げるのは難しい。案の定、5日の中日戦(豊橋)で延長十一回に藤井にサヨナラ本塁打を浴びた。チームメートの永川勝も、中日の岩瀬も、打たれた次の日は何事もなかったかのように抑えてきた。リリーフは先発と違って休む間はない。
ある投手OBに聞くとリリーフは打たれ続けると「投げたくない病」というのがあるらしいが、それでも切り替えないといけない。体力の維持や精神のバランスを、自分で制御しなければやっていけないポジションなのだ。
どんな名選手も成功失敗を経験してきた。中田も今年の経験は来年以降に必ず生きるはず。何とかこの壁を自らの力ではね返して欲しい。
(デイリースポーツ・菅藤 学)