こわもて監督も「つらい」メンバー決め

 夏の甲子園が始まる。龍谷大平安・原田英彦監督と言えば、恰幅(かっぷく)がよく、声もでかい。今大会の組み合わせ抽選日だった。「僕はよく『怖い』と言われますがねえ」と始めた話題の対象は、初戦の相手、春日部共栄の本多利治監督だった。「怖い顔は(本多監督に)負けますよ」と笑わせた。

 確かに本多監督の射抜くような眼光は、鋭い。同監督を知らず、気の弱い人間ならすくみ上がるかもしれない。その本多監督との雑談時、射抜くのではなく、すがるような表情で口にした言葉が印象的だった。

 「何とか、ならんのですかねえ。本当につらいんですよ」。

 春日部共栄の位置する埼玉を含め、かなりのところは地方大会でベンチ入りできる人数を、甲子園の18人から2人、増やしている。ということは、地方大会で優勝を果たし、夢の甲子園を手にした20人のうち2人、背番号を与えられない選手が出るのだ。

 地方大会前のベンチ入りメンバー発表も、指導者にとってはつらい作業だろうが、いざ甲子園を決めてわずか数日中に、そこまでベンチにいた生徒を外さなくてはならないというのは、生徒にとっても指導者にとっても、もっとつらいだろうと察する。

 記者の高校時代は15人だった。現在では十五回までとされている延長戦は十八回までだったか。時代に応じて、ルール(ローカルルールも含め)は変化する。

 32、3年前、他県は知らないが、記者のいた愛媛県では、地方大会後、勝利校が本塁前に整列して校歌を歌う風習はなかった。歌いたければ、甲子園で勝つしかない。それを夢見て、練習終了後、女子生徒にくすくす笑われながら、直立不動で校歌を歌っていた。

 ルールが変わってくれたおかげで、今は地方大会でも勝てば歌える。しかもうれしいことに今年は母校(松山東)の後輩たちが頑張ってくれて、63年ぶりに進んだ決勝では敗れたが、準決勝で、生まれて初めて球場(のスタンド)で校歌を歌わせてもらった。

 話がそれた。その舞台となった坊っちゃんスタジアム。8日まで侍ジャパン女子代表候補の合宿が行われた。9月1日に宮崎で開幕する第6回女子野球W杯に備えてのもので、昨年11月のトライアウトから、4度の合宿を重ねてきた。

 8日。最終選考に残った23人から、大会規定の20人が選ばれた。大倉孝一代表監督は、そろって意思疎通を図ることのできる期間がわずかしかない中で、選手たちから、チーム内での“遠慮”を取り除くことに心を砕いた。

 大倉監督自ら選手に話しかける。メニューにゲーム性を加える。なだめてすかして、一発芸までやらせる中で、だれもがチームに溶け込んでいった。引っ込み思案だった選手が、笑いを取れるまでになった、その中の1人が、最終メンバーから外れた。

 今後ルールが多少、緩和されたとしても、勝敗は決めなくてはならない。それを決める場にいられる選手の数は、限られる。残酷だが、避けては通れない。陳腐な表現になるが、甲子園も、女子W杯も、残った選手が頑張れば、外れた選手も指導者も報われる。好プレーを期待したい。

(デイリースポーツ・西下 純)

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