ホープ遠藤が試練を乗り越えるには
大相撲のホープ遠藤(23)=追手風=が分厚いカベにぶつかっている。開催中の秋場所(東京・両国国技館)では自己最高位の西前頭1枚目で出場。初の三役昇進が期待されたが、フタを開けてみれば、初日から悪夢の7連敗。これだけの大型連敗はもちろん入門後初めての屈辱だ。
8日目に高安を押し出し、ようやく初日を出したが、9日目に豪風に完敗し、早々と負け越しが決定。10日目も常幸龍に敗れるなど伸び悩みは深刻だ。遠藤が一体どうしたらこの試練を乗り越えられるのか。北の湖理事長(元横綱)の見解を参考にしながら考えてみた。
秋場所の7連敗を振り返ってみよう。初日の日馬富士戦から白鵬、鶴竜と3日連続の横綱戦に完敗すると、負の連鎖を引きずるように4日目大関琴奨菊、5日目豊響、6日目大関稀勢の里、7日目新大関豪栄道に簡単に屈した。
西前頭1枚目は横綱陣はじめ上位と総当たりする位置で、遠藤にとって、もともと秋場所は簡単に勝ち越せる場所ではなかった。相手も豊響以外はすべて自分より番付が上だったが、それにしても、大型ホープと呼ばれた男にしては、何ともふがいない結果となった。
遠藤の問題点は、ひとつは立ち合いに力強さがなく、当たり方自体悪いこと。もうひとつはいわゆる相撲力(すもうぢから)不足が挙げられる。
北の湖理事長はこれについて「立ち合いの力強さがない。鋭く踏み込んでいかないと、なかなか自分の思うような相撲は取れない。相手をがちっと受け止めて前へ持っていくようじゃないとダメ。見ている限り相撲力が弱い気がする」と、厳しい見方をしている。
遠藤の立ち合いは顔を少し右に向けて左手を伸ばし、左胸から当たっていくことが多い。踏み込みも浅いため、総じて土俵の真ん中より自分側で相手を受け止める。これでもまわしを取れればいいが、取れなければ苦戦を強いられるのが現状だ。
では、立ち合いを改善すればいいのでは-という声が聞こえてくる。それはその通りなのだが、実は簡単ではない。立ち合いはその型で勝ち続けた経験があると、変えて大負けするリスクを背負えないのだ。
だが、このままでは遠藤はホープのまま大成せずに終わってしまうかもしれない。この行き詰まり状態を解消するためには、立ち合いを含めた抜本的な改良が必要だろう。さて、どうやったらいい方向に持っていけるのかと思い悩んでいると、北の湖理事長がこんな改善策を話してくれた。
「遠藤は顔を上げて左の腕を差し出すようにして当たっていくんだが、これだと当たる位置も当たり方も悪いからまわしを取れない。これを下から押していくように変えた方がいい。背中を丸くして、下から相手をしっかり押してからなら、力が伝わるから、まわしを取れる。体と手が一体化しないとダメなんけどね」
踏み込みの鋭さ、相撲力アップの指針も示してくれた。
「やはり稽古ですよ。自分が思ってもいなかった力が出るような稽古をすること。それには普段から30番は続けて取るような稽古をしないと。苦しい稽古をしないとダメだということです。苦しい中でこそ目一杯の力がアップするんです。今場所前は東京では初めて出稽古をしたようだけど、もっと出稽古をして自分より大きい人、力の強い人と当たるのも大事。部屋で体の小さい人といくらやっても本当の力はつかない」
集約すれば、結局は稽古の質量と立ち合いの改善か。優勝24回を誇る大横綱の目は確かで、その言葉は重い。10月19日でホープも24歳になる。そんなに若いわけでもなく、時間はあるようで短い。再び成長の歩幅を広げ、ホープから三役、大関、そして待望の和製横綱へと成長するのか。期待を捨てずに見守りたい。
(デイリースポーツ・松本一之)