クドカンも大暴れした幻の映画

 映画「福福荘の福ちゃん」(11月8日公開)に主演する大島美幸が共演の荒川良々と、3日夜10時からフジテレビ系で放送される「SMAP×SMAP」に登場する。2人で「ビストロSMAP」に“来店”し、この映画をPRするようだ。

 その大島に関するコラムを先日アップさせていただいたのだが、ここでは世間一般では知られていない藤田容介監督の経歴を、特に劇団「大人計画」との関わりに触れてみたい。今や売れっ子脚本家となった“クドカン”宮藤官九郎も藤田作品で大暴れしていた。

 兵庫から上京し、法大映研で映画を撮り始めた藤田監督。1987年、映画監督の登竜門・PFF(ぴあフィルムフェスティバル)で入選した作品「虎」は、スカラシップ(製作援助を受けられる制度)こそ、今や売れっ子監督の園子温に譲ったが、イタリア・トリノ国際映画祭8ミリ部門でグランプリを獲得。だが、商業映画を撮る機会に恵まれず、その後は大人計画とのコラボで撮り続けた。

 「90年代は大人計画一色だった。(当時の看板役者)温水洋一さんに誘われたのがきっかけ。(主宰の)松尾スズキさんと共同監督した『猿で行く』という作品(92年公開)を名古屋で上映する際、松尾さんが自分の半生でひどいことをしてきたザンゲのために紙粘土で地蔵を作り、東京から新幹線に乗って(当時、全国区の人気者だった)きんさんぎんさんの、きんさんの自宅までアポなしで行って手渡すまでをビデオカメラで撮ったドキュメンタリー『名古屋親切一人旅』とか…」

 「猿で行く」(宮藤も出演、脚本参加)は画面の外から突然飛んできた男が相手を蹴るなど意表を突く映像の連続。余談だが、星稜高の松井秀喜が甲子園で5打席連続敬遠される前日と前々日、筆者は勤務地の兵庫・加古川から上映地の東京・新宿まで夏休みを使って見に行った。まったく酔狂な話である。

 宮藤が阿部サダヲと共に、年上の「バイト君」(村杉蝉之介)をイジメ抜いた(それだけではないが…)作品が99年公開の「グループ魂のでんきまむし」。藤田監督は「97年から撮った。グループ魂が『笑点』に出て(うれしくて)大騒ぎしていたマイナーな時代」と振り返る。まさか彼らが紅白歌合戦に出るなどとは思いもよらなかった時代。毒のある笑いと暴力、独創性がさく裂していた。

 ところが、02年に大人計画のユニット公演の劇中映像として製作した荒川主演の短編「イヌ的」から作風が一変する。「暴力的なことにあまり興味がなくなった」。その発展形として同じく荒川主演で、木村佳乃がヒロイン役の「全然大丈夫」(08年公開)でメジャーデビューを果たし、「藤田秀幸」から「容介」に改名。優しさに包まれた作風で女性ファンに支持された。

 「福ちゃん」にも絶望から体得した優しさがあふれているが、そこ(底)には「でんきまむし」から地続きの「イジメ」がある。作風は変わっても本質は不変だ。大島自身、小中学生時代のイジメ体験を公言しており、作品内でも主人公が中学時代にイジメられる回想シーンが描かれる。藤田監督は「(大島の夫で放送作家)鈴木おさむさんが長文の感想をブログで書いてくれた。イジメのシーンで本人とダブってしんみりしたと…」と明かす。

 「プロの映画監督になる」-。明石にいた高校時代、東京でバッタリ会った大学1年の冬、そう言い切った彼の決意は一貫してブレていない。小学生時代から近所に住む同級生として作品を追う度に、そう実感してきた。ソフト化されない幻の作品群で躍動する、若き日の宮藤ら多くの才能を映像から教えてもらった。

(デイリースポーツ・北村泰介)

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