中畑監督とファンとの1年を振り返る
「ファンあってのプロ野球」。DeNAの中畑清監督(60)は、この言葉を常に口にする。球界でよく使われる言葉だが、中畑監督はファンの目線に合わせてこれを実践する。求められればサインに応じ、グラウンドとスタンドで軽妙なやりとりが見られるのも当たり前の光景。それは街中でも同じ。12球団で最もファンを大事にする、中畑監督とファンの1年間の触れ合いを、おもしろコメントとともに拾ってみた。
◆4月9日(大阪城公園を散歩。ボランティアのおばちゃんに「散歩ですか?」と聞かれると、4歩歩いて)
「1、2、3、4。3歩じゃないよ。4歩だよ」
(オヤジギャグで場を和ませたあとで)
「大阪のおばちゃんは、みんな親戚だと思っているからなあ」
◆4月16日(名古屋城周辺を散歩。手をつないで列を作って歩く幼稚園児に遭遇。おばちゃんは手玉に取ったが、幼児には苦戦…)
「仲良しだねえ。♪お手々~つないで~」
(あまりの熱唱ぶりに、園児に「うるさいっ」と一喝されて)
「怒られちゃったよ」
(保育士さんにたしなめられた園児に「こんにちは」とあいさつされると再び熱唱)
「♪こんにちは~あかちゃん」
(その園児に「あかちゃんじゃねえ!」と一喝されて)
「はいはい、そうですね。すいませんね」
(園児集団を追い越したあとで、寂しそうに)
「オレ、子供あやすの得意なんだけどなあ…」
◆7月15日(マツダスタジアム。スタンドからファンに「男前ですね」と声をかけられて)
「よく言われるんだ」
(そのファンに「広島まで応援に来ました」と言われ)
「オレも広島に来たよ」
(同じファンに「あしたも来ます」と言われ)
「オレも来るって言ってるだろ!」
(同じファンに「来月は横浜に行きます」と言われ)
「おう。オレも行くよ」
(ファンを相手にボケ通して、コミュニケーションをとる。スタンド、ベンチ一体になって大爆笑)
◆7月19日(横須賀での練習中、ファンから呼び止められる。『○○(選手名)はもう使わないでくれ』と言われる。そのファンの目の前に正対して、思いを口にする)
「『もう使うな』とか、ファンならそういうことを言わないでくれ。みんな、一生懸命やっているんだ。その結果、失敗することもある。それをどうこういう人はファンとは思わない。ファンなら次は頑張ってくれ、と温かい目で見てほしい。よろしく頼むよ」
(自ら思うファン像を、熱い口調で説く。本音で接するべきときは偽りのない言葉を口にする。これも1つのファン愛)
◆8月1日(甲子園。現役時代、敵地で受けたヤジを振り返る)
「応援の歴史もひもといてみたいな。当時は甲子園は練習前から客を入れていたんだよ。あのころはヤジ合戦もおもしろかった。『万年刈りあげキ・ヨ・シ』って言われたよ。『江川の耳は豚の耳』というのもあったな。球場入り直後に“帰れコール”もされた。帰っていいのか?試合できないじゃん。なあ?(笑)。(G党に)『悔しかったら勝ってみろ』って言われて、(虎党が)シュンとしていたっけ。阪神ファンから、けっこう人気あったんだよ。オレ。『おまえ、ジャイアンツの顔じゃねえ』って言われてね。『タテジマを着ろ』って。今、青いタテジマを着ていますが」
◆8月22日(松山城を散歩。ファンに囲まれる。「ピンで写真を撮ってもいいですか?」と聞かれて)
「ピンでいいよ。『キヨシぴんぴん物語』」
(笑いを誘ってご満悦)
「今のネタはなかなかよかったな」
DeNAは14年、観客150万人を突破した。昨年比110%、球団1年目の12年との比較では142%と右肩上がりの動員を記録している。球団運営面の努力も、もちろんある。そして、中畑監督のファンとの接し方に見られるように、現場、フロント一体となって、ファンとの距離を縮めているのがその要因。中畑監督は「来季は勝ちにいく」と強調。年々増えつつあるファンと、勝利の喜びを分かち合う思いだ。(デイリースポーツ・鈴木創太)