世界王者の価値を高めるために
昨年、井上尚弥(大橋)、田口良一(ワタナベ)の新世界王者が誕生、高山勝成(真正)が返り咲いて日本人のボクシング世界チャンピオンは7人(日本ジム所属の外国人、日本ボクシングコミッション非公認を含むと10人)になった。
4団体の林立と階級の細分化で、王座の質の低下を憂える声がやまないのも事実だ。そんな中、チャンピオンたちは自らのあり方についてファン以上に考えているのではないか。
道の一つは団体統一戦だ。同じ階級に王者は4人も要らない、というスタンス。WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志(ワタナベ)やWBC世界バンタム級王者・山中慎介、同スーパーフェザー級王者・三浦隆司(ともに帝拳)は、今年の目標に統一戦を挙げる。階級最強の証明だ。
次に誰と対戦するか、という問題。WBO世界スーパーフライ級王者、井上尚弥(大橋)には「強い相手としかやらない」というこだわりがある。昨年暮れに、世界戦27度の防衛を数えた最強王者、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)を下して2階級制覇を達成した。2階級上げた初戦に伝説の王者を倒した快挙は見事と言うほかなかった。
敗れはしたものの、昨年八重樫東(大橋)がローマン・ゴンサレス(ニカラグア)と、天笠尚(山上)がギジェルモ・リゴンドー(キューバ)と見せた激闘は多くのファンの胸を打った。強い挑戦者から逃げず、強い王者に挑むことでボクシングの奥深さ、面白さを堪能させてくれたからだ。
記録を狙った予定調和のタイトルマッチなど誰も望まないだろう。また、そういう試合はほとんど見なくなったのではないだろうか。
チャンピオンベルトの価値をどう高めるか、王者はもちろん、陣営にも覚悟と努力が問われている。今年も1試合でも多く、目を見張るような試合を見たいと思う。
(デイリースポーツ・津舟哲也)