逸ノ城の快進撃はなぜ止まったのか
大相撲初場所は連日満員札止めになる大盛況だが、その陰で大器の快進撃にブレーキがかかった。湊部屋所属の怪物ことモンゴル出身の逸ノ城(21)。12日目に横綱日馬富士に完敗し、ちょうど1年前の昨年初場所初土俵以来7場所目で初めての負け越しを喫した。昨年秋場所では13勝を挙げて関脇昇進を決めたころの勢いは影を潜めた。一体、モンスターに何が起こっているのか。
逸ノ城の入門以来の成績を振り返ってみよう。昨年初場所(幕下付け出し15枚目)が6勝1敗、以下春場所(西幕下3枚目)6勝1敗、夏場所(西十両10枚目)11勝4敗=優勝、秋場所(東前頭10枚目)13勝2敗=殊勲・敢闘賞、九州場所(西関脇)8勝7敗と、まさに昇竜のごとく番付を駆け上がってきた。
それが初場所は初日に遠藤とのホープ対決に敗れると、業師の安美錦に完敗。琴奨菊、豪栄道の両大関、関脇碧山に勝って存在感を示したが、白鵬、鶴竜、日馬富士の3横綱には子供扱いにされた。負け越し決定初体験の12日目には「立ち合いの稽古をもっとしないと…。それに体重(公称202キロ)を減らさなければ」と話すのがやっとだった。
北の湖理事長(元横綱)はこう分析する。
「初場所前の稽古総見で安美錦が研究しながら逸ノ城と申し合いをしているように見受けられたが、これに象徴されるように、今場所は相手に弱点を研究されている。例えば、前に出ていけば、逸ノ城は下がる。四つに組んでも止まることが多く前へ出てこない。結果として自分の相撲を取り切れていない」
確かに立ち合いで当たったあとに引く相撲は多い。昨年も勝ち込んではいたが、上体が立って引きながら頭を押さえての投げが目立った。この決まり手に「逸ノ城スペシャル」と異名もついたが、決して褒められた内容ではなかった。大きくて重い体は前へ出れば武器だが、後ろへ下がり始めたら最後、自分の重さで後退を止められなくなるという。その弱点が、先場所までは本人が持っていた勢いと相手の研究不足で表に出なかっただけともいえる。
日本相撲協会役員待遇の陸奥親方(元大関霧島)は冷静に見ている。
「快進撃が止まったというより、それが普通でしょう。稽古もあまりできていないようだし、体が大きいから、先場所までは勝っていただけ。試練なしで大関、横綱に上がるなんてなかなかできるこじゃない。ようやく勉強の時が来たということ。でも、体も力もあるんだから、努力次第で上へいく可能性は十分にあるよ」
では、怪物再生には一体何が必要なのか。陸奥親方はやはり相撲の基本に返ることだという。
「引くクセがあるのは腰高だから。腰を下ろして足がそろわなければ、伸びしろはたくさんあるよ。まずは四股、すり足を軽んじず、徹底的にやることだね。下半身を鍛えて抜いて、重い体を支える土台ができれば、腰高は直る。それから稽古の番数をもっと増やすこと。とにかく前へ出て下がらない相撲を頭と体に覚え込ませるんだ。そうすれば大きく重い体が生きてくる」
大関、横綱を目指すなら、まず前へ出ろ-。簡単なようで難しい基本中の基本を怪物がどう身につけるか。早くも春場所(3月8日初日、大阪・ボディーメーカーコロシアム)が楽しみになってきた。(デイリースポーツ・松本一之)