阪神 江夏臨時コーチが訴えたもの

 劇的に、目に見えて分かる大変身を遂げた選手はいない。ただ、効果は間違いなくあったはずだ。阪神の1軍キャンプで臨時コーチを務めた江夏氏は、静かに、時に熱く後輩たちへ助言を送り続けた。思いは、それぞれの選手に確実に浸透しているように思える。

 球団側からの要請を受け、キャンプに臨むにあたり、江夏氏が決めていたことがあった。「細かな技術面のアドバイスはしない。そして邪魔にならないように」。キャンプ初日から8日までという期間を考えると、できることも限られていた。例えば、無理にフォームを改造するなんてことはできない。だから、基本となるキャッチボールの重要性を再確認させた。

 「もう少しキャッチボールを大事にしていいんじゃないかと。自分が入ったころの時代はキャッチボールを大事にしていた。キャッチボールは基本。バッターで言えばトスバッティングになるけど。なぜキャッチボールが大事かというとフォームのバランスとかね」

 日々行う練習で難しいものではない。だからこそ、意識の持ちようで得られる効果も変わってくる。「ただ漠然とウォーミングアップのキャッチボールをするよりも、何か自分で求めて、目的意識を持って、それがピッチャーだから」。そういった思いを、初日に各投手のキャッチボールを確認して中西投手コーチに説いた。

 例えば藤浪の遠投を見た時には、能力の高さを再確認しながらも、まだまだ十分に成長の余地が残っていることも感じ取っていた。

 「遠投というのは、全身で投げないとなかなかボールはいってくれない。けれど彼は腕だけで素晴らしいボールがいっている。あの辺りが彼の素晴らしい部分と、成長を何か止めてしまっている部分があるんじゃないか」

 つまり、現在の藤浪は全身を使って投げていなくても素晴らしいボールを投げられている。だからこそ、そこを改善できれば投手としてもう一段階上にいけるのではないか、というのが江夏氏の見解。実際に、藤浪の遠投中にも声をかけてアドバイスを送ったが、伝えたかったのは意識の持ちようで、新たな自分に変わっていけるということだ。

 また、榎田には、ブルペンで直球主体で投げる練習法もアドバイス。実際に、榎田は第1クールは直球中心で投げ込んだ。自身初というような練習法だったが、これも投球における基本が直球だからこそ。江夏氏は「今までやってきたことから、違うことへの意識革命。自分が変わらないと。自分で変わるんだ、変えるんだというのを意思表示しないと」と力説した。

 現役時代の抜群の成績に加え、独特の存在感から記憶にも残る大投手。虎投に浸透させたのは細かいことではなく、基本の重要性と意識の部分だった。「みんな好きな野球をやっているんだから、楽しく明るく、野球に立ち向かってもらいたいね」。レジェンドが訴えた思いは伝わっている。あとは個々にどう生かしていくかだ。

(デイリースポーツ・道辻 歩)

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