元世界2階級王者・長谷川の重い決断

 ボクサーの引退判断は実に難しいものだと痛感した。元世界2階級王者・長谷川穂積(34)=真正=が1月14日に現役続行を表明。昨年4月、「負ければ引退」と話し、3年ぶりの世界戦に臨んだ。結果はIBF世界スーパーバンタム級王者・キコ・マルティネス(スペイン)に7回TKOで完敗し3階級制覇に失敗。進退に関し9カ月、熟慮を重ねた末の決断だった。

 父で元プロボクサーの大二郎さんは前戦後、「試合前に電話で話したら、ろれつが回っていなかった。勝っても辞めて欲しかった」と語った。反対する家族ら周囲の心配は痛いほど感じる中、「やろう、辞めようの繰り返し。常にグラグラしてた」と揺れに揺れた。

 最後はボクサーとしての本能が勝った。昨年末、再起戦の相手として実績ある日本選手が浮上。結局、対戦は流れたが、「どんなボクシングをするのか、考えてワクワクしている自分がいた。そう思えるということは可能性があるのかな」と心は大きく傾いた。

 前戦は「心技体、どこか欠けていた」と悔い。「やり切ったと思えるのは1日たりともない。人生の目標って何か。燃え尽きることが目標でなく、今ある人生を全うするのが目標。このワクワク、ドキドキがあるのに、あーあの時、辞めて良かったと思えるか?思えない。今の命を全うしたい。後悔したくない」とくすぶる思いは拒否できなかった。

 練習再開後は映像でさまざまなボクサーを見て研究。「なぜ、もっと早く見なかったのか。初めてこんなにボクシングと向き合って見えたものがある。自分は未完成」と感じた。

 5月に行われる次戦はフェザー級で世界ランカークラスを予定。二人三脚で歩んできた山下正人会長は今回、担当トレーナーを外れミットを持たず、師弟は初めて袂(たもと)を分かつ。「本人がやりたいようにやれる方がいい。それだけの選手だから」と会長は側面支援に徹する。

 WBC世界バンタム級王座を10度防衛。フェザー級と2階級制覇し日本のエースとして君臨した。11年に王座陥落後も悩んで現役続行。ただ「あの時とは気持ちは全然違う」と言う。「アホになるまでやるつもりはない。体は大事」と衰えを感じれば即、引退の覚悟はできている。

 「奥さんも家族も心配する人も次の試合ですごいパフォーマンスして勝てば黙らせられる。その自信があるからやるんです」。

 前戦、3度も長谷川をダウンさせたマルティネスは昨年、王座を陥落。世界的にも層が厚い階級で再び頂点に立つのは奇跡に近い。それでも一時代を築いた男の重い決断を誰も止めることはできない。“限界説”を吹き飛ばす復活を期待したい。(荒木 司)

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