巨匠をうならせた女優・ももクロの魅力
28日に公開を控えた、ももいろクローバーZの主演映画「幕が上がる」。ファンに向けた、いわゆるアイドル映画かと思いきや、本格派の青春群像劇として、関係者の間で高評価する声は多い。メガホンをとった本広克行監督によると、日本映画界を代表する山田洋次監督からも、青春映画の巨匠・大林宣彦監督からも称賛されたという。作品を輝かせ、巨匠をもうならせたももクロの魅力はどこにあるのか。本広監督に聞いた。
「踊る大捜査線」シリーズで知られる本広監督。作品を見た大林監督から「僕の後継者だね」と肩を叩かれたエピソードをうれしそうに明かしてくれた。山田洋次監督からは「君はこういう映画を撮れるんだねぇ」と褒められたという。
「アイドルの映画ってだけで絶対に(見に)来ない人がいる」が持論。「今はアイドルが会いにくる時代。見に行く時代じゃない。本気でやらないとモノノフ(ももクロファンの愛称)しか見てくれないものになる」と、ファン以外の層にも訴求できる作品作りを進めた。結果的に鮮明となり、作品を輝かせることになった、ももクロの魅力が3点ある。本広監督の証言から紹介する。
(1)準備から“全力”
本格的な演技は初となるももクロのため、クランクイン前には映画の原作者で劇作家の平田オリザ氏による演技のワークショップが行われた。多忙なスケジュールを縫って4時間に及ぶレッスンを5回ほど行い、昨年8月にクランクイン。1カ月かけて撮影したが、この期間自体が、ももクロの覚悟の表れだった。
「売れっ子のアイドルになると、空けられても撮影期間は2週間くらい。ももクロは1年前から調整して、ビシッと1カ月空けてくれた」。準備期間を含め、本業の合間に映画に出るという枠をはるかに超えた姿勢で作品に臨んだ。
(2)鍛えられた“自由”
本広監督は、女優・ももクロの魅力を“自由さ”だと説明する。
「自由に、ももクロっぽくやってごらんと言うと、本当にたくさんのアイデアが出てきた。複雑な踊りを覚えて、それが100曲以上あって、どんな会場に行っても対応する。その訓練を演技にチューニングするだけで、なじむんです。
こんなにできるのに、今までの彼女たちの演技作品って緩かったんですね。すごく下手に見える。撮影して分かりました。自由を奪い過ぎていたんだな、って」
始めは演じることにぎこちなさもあったが、魅力を引き出すように演出していくと終盤は一発OKを連発。監督いわく「スーパーサイヤ人状態」だった。順撮りしたため、メンバーが演技的に成長していく過程そのものが役に投影されており、胸を打つ。
(3)現場でもアイドル
本広監督は現場でのメンバーの様子を「どんなに忙しくても寝ない。車両部の人から何からスタッフの名前を全員覚えて、呼んでいる。台本は絶対に読まない」と驚きを交えて振り返った。「みんなモノノフになっちゃって、弁当がどんどんよくなっていきました」と、ももクロを中心に、いい作品を作ろうとする機運は自然に高まっていったという。
「撮影期間が少ない」「演技力に不安がある」「現場で余裕がない」。そんな、アイドル映画にありがちな懸念を排除できたのは、何事にも全力で取り組む、ももクロだったからこそ。ももクロのすごみが凝縮された作品になっている。
本広監督は言う。「エンドロールは、百田夏菜子、玉井詩織…とメンバーの名前が流れていって、最後に『協力・ももいろクローバーZ』と出る。それを見て『ああ、そうだ、今のは、ももクロだったんだ』と思わせられたら、僕の勝ちですね」。観客との“勝敗”の行方は、果たして-。
(デイリースポーツ・古宮正崇)