猛打の秘密大阪桐蔭「強打者養成特訓」
あの猛打はいかにして作られるのか-。今春のセンバツで史上5校目の夏春連覇を目指す大阪桐蔭の“代名詞”と言えば強力打線だ。その礎となるのが木製バットにも対応できる、下半身主導の強いスイング。トランポリンに乗ってのロングティーなど、細部まで負荷を重ねた打撃練習に迫った。
ここまでやるか-。大阪桐蔭の打撃練習には何重もの“負荷”が張り巡らされていた。ここ7年で4度の甲子園制覇を成し遂げた新時代の王者。原動力となっている強力打線の基礎は、いかにして養われるのか。象徴的存在がトランポリンを使ったロングティーだ。
あえて足場を不安定な状態にした上で、遠くへボールを飛ばすトレーニング。西谷監督は「7、8年前に陸上選手がトランポリンを使って走ったらタイムが上がったのをテレビで見てやってみようと。実際にやったら一理あるなと。これをやってから土の上でやると、ガッと下半身がかむんですよ」と明かす。
足場が不安定な中、上半身だけでバットを振ろうとしてもボールは飛ばない。“金属打ち”と称されるように上半身で遠心力を生み出すスイングでは、バランスを崩してしまう。ポイントは下半身と体幹を意識すること。実際に木製バットを使うプロでは、ボールを飛ばすために必要な要素は下半身と体幹の強さと言われる。
金属バットの特性を生かした打ち方ではなく、木製バットにも対応できるスイングを指導する理由とは-。「先(プロや大学)に進めば、2年生たちはあと1年後に木のバットを使って打つことになる。もちろん金属だけでもいいけど、木でも打てれば鬼に金棒じゃないですか」と西谷監督は明かす。
実際に大阪桐蔭では、例年11月に木製バットのみを使った紅白戦を行っている。「もちろん誰も打てません。貧打戦のゲームになる。それだけ木製で打つ難しさを分かってほしい」。ゲームの結果から、下半身主導でスイングすることの大切さを学ぶ。それに付随してトレーニングの重要性を知る。
取材した当日はウォーミングアップ後にまず約4キロのタイム走を実施。そこから守備練習を挟み、1回目のロングティーを行う。30スイング×10セットは「3秒に1スイングとテンポを設定」し、約30分で消化するハードトレ。そこから山間部で約1時間半、坂道ダッシュや階段登りで下半身をいじめ抜く。
この時点で普通の高校生、いやプロでも音を上げてしまうほどの練習量と密度。だがこれにとどまらず、グラウンドに戻って約2時間、フリー打撃と強化トレーニングを実施。最後に再び同様のロングティーを行う。
「しんどくなってからバットを振り込むことで自然と下半身の使い方を覚える。体がパンパンの時こそ、下半身を使わないとボールは飛ばない」と説明した西谷監督。もちろん強打の秘密はこれだけではない。
練習で使用する木製バットは、あえてヘッドを効かなくしたものをメーカーに発注。「最近のバットはヘッドが効き過ぎる。だから昔のバットの形状です。中日の平田なんかは自主トレ用にこのバットを持って帰る」。さらにフリー打撃で使う金属バットも重さを1キロに設定し、反発力を抑えるために金属の質を落として作られた特注品だ。
単に当てるだけでは飛ばない。しっかりと下半身を使った強いスイングでなければ、鋭い打球は打てない。甲子園を席巻してきた抜群のヘッドスピード、そして高校生のレベルを超えているような強烈な打球-。それは何重もの負荷をかけた上でトレーニングしてきた成果であり、西武・中村、阪神・西岡、日本ハム・中田らプロで一流打者を数多く輩出する要因の一つとも考えられる。
ランニング、スイングの質と量は随一。「やっぱり走らないとダメ。練習できる体力、ゲームに勝つ体力を冬場につけていかないと」と西谷監督は力を込める。今春のセンバツでは史上5校目の夏春連覇がかかる。昨秋の公式戦で残したチーム打率・399は、出場校全体で2番目の数字。圧倒的な練習量で培われた強烈なスイングが、春も聖地を席巻する。(デイリースポーツ・重松健三)